一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.294「でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男」

でっちあげ

描かれる日本の心の闇

冤罪教師の悲壮事件に心痛む問題作!!

開巻してすぐ。雨の中を男が足早にマンションに入る。マンションの部屋に招かれ入ると、男は濡れた靴を乱暴に脱ぎ家に上がりドスンと椅子に座る。

男は小学校の教師のようだ。家庭訪問らしく、母親は雨の中申し訳ない、と詫びるが男は「はっきり言って迷惑です」と不快感をあらわにする。とまどう母親に子供がクォータだと知ると「やっぱり」「オタクのお子さんの血は汚れている」と言い放つのである。えーっ!! なにこの教師!?  何言うの?? とこちらは驚く!

濡れた靴下を机の下で足で脱ぎ、どこまでも態度が悪く言動は驚愕の発言連発! 唖然としていると、この教師、後日その生徒を呼び出し両耳を引っ張りあげて持ち上げ「誰にも言うなよ」と口止めして耳が切れる怪我を負わせるのだ。当然、母親の告発により裁判に。しかし、男は罪状を完全否認。「事実無根のでっちあげです」と苦しそうな顔で訴えるのだった……。

でっちあげ


実話のルポタージュが原作

怖ろしい話を前のめりで見てしまう!

驚愕のオープニングに一気に前のめりになる。なんて、ひどい教師なんだ!! と誰もが糾弾したくなる。しかし、それ全部母親のでっちあげなん?? どういうこと?? これ、2003年に福岡で実際に起こった事件のルポタージュが原作。実話ということが驚愕。怖ろしい話である。

この教師は自らの冤罪を晴らすために奔走するのだが、一度張られたレッテルや世間の目はなかなか覆ることはない。週刊誌記者まで母親側につき、もう八方塞がり。よく、自殺しなかったものだと思う。尋常な精神力ではこの現状を乗り越えるのは困難だろう。

物語は母親の証言と教師の証言とが語られ、それぞれの視点が交差して、見ているこちらはだんだん、一体この母親はなぜこんな……? と不気味な気持ちに浸されていく。

でっちあげ


よく分からない母親の行動原理

張られたレッテルを剥がすむずかしさ!

しかし、こういうことはよくあるのではないか? 一度こういう人、となったら、死ぬまでこういう人のままにしとくって。世間ってそういうものだから。教師が実はひどい虐待をしていた、とかの悪い方が人は飛びつきやすい。そして、別にそれが間違っていても「あっそうなの」で終わってしまう。

でも、悪い教師にされたままの教師は仕事を失い、世間からは四面楚歌で冷たい目で見られたまま。要するに世の中から抹殺されるのだ。冤罪は今もなくならない。最初のシーンでこんな問題のある教師役を綾野剛、よく引き受けたな、と感心していたら、実はでっちあげで良い教師でした、となったらとたんに「なーんだ」となったのは正直なところ。だって虐待教師がやたらハマってるんだもの。

対して理解不能の言動をとって綾野を徹底的に追い詰める母親役の柴咲コウ。この人が一番怖いのは、行動原理がよく分からないから。少しだけ過去も描かれるが、分からない。彼女の精神の闇はどこまでも分からない。だから怖い。そして、その怖さは現代日本の闇なのだと思う。

人を安易に判断することは禁物だ。自分の心の目で見極めたい。間違っていたら声をあげたい。勇気を持って、自分と他者の闇を見つめることが大切だ。むずかしいけど。

監督 三池崇史

原作 福田ますみ

脚本 森ハヤシ

出演 綾野剛 柴咲コウ 亀梨和也 小林薫 大倉孝二 小澤征悦 高嶋政宏 北村一輝

迫田孝也 安藤玉恵 木村文乃

※130分

※公開⽇:6⽉27⽇(⾦)
配給:東映
コピーライト:©2007 福⽥ますみ/新潮社 ©2025「でっちあげ」製作委員会






  

  

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