ダンサーを夢見る少年と家族
新しい時代を感じさせる物語!!
夢を持った少年がその才を認められて旅立っていく……。そんな物語はみな大好きだ。そしてよくある物語だけど、普遍的な要素が大抵詰め込まれているので感動的な作品になることが少なくない。本作も、丁寧に少年とその周りの人々の心情を描き、心に残る一作となっている。誰も嫌な人はいない、おとぎ話のような作品である。ラストは「えっ!?」と思わされるが、それもいいかもしれない……と思う。今はそういう道もあるのだ。
ダンサーを夢見ながら、父親のいない家計を支える母親と妹と暮らす少年、踊。母親は朝昼仕事の掛け持ちで忙しい。でもダンススクールの月謝は出してくれる。言葉をほとんど発しない妹は、いつも踊と一緒でにーにーが大好きだ。踊はダンススクールでも下手で落ち込んでいたが、リサというダンス上級者の少女に声をかけられ共に練習することに。リサは東京へ行って成功したいという夢を持っていて、踊も影響を受けオーディションを受けることになるが……。

オール沖縄ロケ、沖縄出身者たちの好演
沖縄の違った顔も見られるリアル
沖縄の貧困率や、少年犯罪率は高い。以前、岸政彦さんの沖縄に関しての著書を読んで暗澹とした気持ちになったことがある。本作の舞台のコザあたりも貧困率が高い地域のようだ。少年たちは仕事もなく、道を踏み外す確率が高い。本作にも踊の友人で窃盗を働こうとする少年や、チンピラが登場する。しかし、みな心優しいキャラで、踊を助けてくれる。
脇のキャラで特筆なのが、津嘉山正種演じるシーサー作りの作家だ。彼は踊に沖縄の魂を教えてくれる。津嘉山さんの演技は説得力があり、感動的。母親役の仲間由紀恵や津嘉山、踊やリサ、妹など、沖縄出身のキャストがほとんどで、共同監督も沖縄出身だ。みな好演していて、沖縄への愛がひしひし感じられる。オール沖縄ロケでもあり、沖縄のまた違った街の顔が見られるのも、収穫だろう。

ダンスシーンは圧巻!!
踊が選んだ選択は新しい時代の幕開け
踊を演じるSoulが、最初下手なんだけど、次第に抜群のセンスで踊り出すシーンがカタルシスを感じる。彼はもちろんダンス上級者で、沖縄アクターズスクール出身者だ。今回147人の中からオーディションで選ばれただけあって、幼い風貌ながら自然な演技は心を打つ。リサ役の伊波れいりはすでにプロで、ダンスも見事で見とれてしまった。ふたりのオーディションでのダンスシーンは興奮!! かっこいいのだ。沖縄は才能の宝庫だなと思う。
さて、家族のつながりと自分の夢、そしてニライカナイ(海の彼方にある理想郷。沖縄で古くから伝わる言葉で、願いが叶う楽園のような場所)。それは一致するのか?ラストに踊が選んだ選択は一致するのだろう。これからは、既成の価値観をすり抜けていく生き方が重視されるのだとも思う。新しい時代に入ったのだから。
監督 堤幸彦
共同監督 平一紘
脚本 谷口純一郎
出演 仲間由紀恵 Soul 又吉伶音 伊波れいり 松田るか 津波竜斗 内田樹
津嘉山正種 橘ケンチ
※96分
※3月14日(金)から全国ロードショー