一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.288「ブルータリスト」

ブルータリスト

ユダヤ人建築家のアメリカでの数奇な半生

ドラマチックに衝撃的に描く壮絶大作!!

3時間(215分)を超える大作である。しかし、少しもだれることなく、うとうとすることもなく、ワクワクして観ることができた稀有な作品である。これはたぶん成功物語として楽しめるからではないかと思う。しかし、かなり毒気のある作品で、監督は変態だろうな、とは思った(笑)。ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞し、アカデミー賞にも多数ノミネートされている話題作だ。

最初のシーンからドラマチックで、3時間大丈夫だろうか? と不安になるが、映画はすぐに物語を語り始める。第二次世界大戦下のホロコーストから逃れてハンガリーから新天地アメリカに渡って来た主人公ラースロー。妻子はまだ渡航できず、1人従兄弟を頼っての移住だ。家具や、内装を請け負う店を営む従兄弟は美しい妻と暮らしていたが、ラースローに仕事を与え親身になってくれる。

ハンガリーで有名な建築家として活躍していたラースローは、ある仕事で裕福な実業家ハリソンと出会う。ハリソンはラースローを気に入り、礼拝堂の設計と建築の全権をラースローに依頼する。アメリカでのどん底生活から這い上がれる絶好のチャンス。アメリカン・ドリームかと思うが、ハリソンは複雑な性格を持つ男で……。

ブルータリスト


主人公の歩む道筋を丁寧に丁寧に活写!

スリリングな人間関係はハラハラ!!

ラースローがアメリカに着いて、まず売春宿に行き、従兄弟に会い、従兄弟の妻の様子を描き、ハリソンの家を改築し、その様子を描き、と丁寧にラースローの歩みを描く。こちらはこの才能溢れる不幸な移民の男がどうやってのし上がっていくのか興味津々になる。また、ラースローとハリソンの蜜月がいつ壊れるのかハラハラする。

ラースローの行く手には次々困難がふりかかる。それをクリアしようとする過程がまた懇切丁寧に描かれ、同時にスリリングだ。それ必要ない描写じゃないの? そのロケいらんのでは? と思うがそうではないのだ。そのディティールがこの壮大な物語を語るに全て必要なコマであり、それがこの映画の文体であり、リズムなのだ。

ブルータリスト


キャストの熱演に驚き、おののき、感嘆する

猥雑で不協和音が響き渡る世界に浸れ!!

一体これ、どこで、どうやって撮影(本作はフィルムでの撮影)したんだろう?(主にヨーロッパのハンガリーのブタペストやイタリアなど)ってな映像満載でもうこの監督はまだ36歳だけど、これ以上のものは創れないのでは? とも思わせる渾身の出来。ハリソンのキャラが複雑怪奇で、不可解な行動もミステリアスで面白い。でも、よくわからん。演じるガイ・ピアース、怪演である。

そして、ラースロー役のエイドリアン・ブロディ(彼のルーツはブタペスト)。好きな顔ではないのだが、今回の演技は素晴らしかった。ラースローの妻役のフェリシティ・ジョーンズ。怖かった。もっと彼女は活躍するかと思ったけど、夫や仕事への不満を爆発させるこの時代の女性だった。夫への愛ゆえにラスト近くにとった行動は凄まじかった。怖い。

全篇に渡る映像と物語と音楽の不協和音が終始観る者を不安にさせる。しかし、それが観る者の心を離さない。不安というのは、かくも魅力的なのかと確信する。いやー、こういう映像体験はなかなかできないので、是非215分、翻弄されてください。

監督・脚本 ブラディ・コーベット

脚本 モナ・ファストヴォールド

出演 エイドリアン・ブロディ フェリシティ・ジョーンズ ガイ・ピアース ジョー・アルウィン

ラフィー・キャシディ アレッサンドロ・ニボロ

※125分

※2月21日(金)から全国ロードショー






  

  

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