一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.287「セプテンバー5」

セプテンバー5

テロの生中継は全世界を震撼させた!

ミュンヘンオリンピックの報道の真実!!

息詰まる90分を体感できる。実際に1972年の9月5日にテレビの前に座ってこの報道を見ているような気分にさせられた。観終わって、どっと虚しさと徒労感に襲われた。あれで、良かったのか……。現場の指揮を執ったディレクターと同じ気持ちになった。良かったかどうかはわからない。でも、報道マンとしてとった行動は正しかったのではないか……。

本作は1972年のミュンヘンオリンピックで実際に起こったテロ事件を報道したABCテレビの中継チームの姿をドラマ化している。この事件はイスラエル選手11人が選手村で突然パレスチナ武装組織「黒い九月」により人質になり、全員が死亡したという痛ましい事件だ。この選手村での様子は世界にライブで報道され、9億人が見守ったという歴史的中継なのだ。

事件はスピルバーグ監督の「ミュンヘン」(2005年)という犯人側から描いた映画で知っていたが、実際に放送現場でこんなことがあったなんて知らなかったので驚いた。しかも、全世界に中継で報道してたなんて。

テロの様子を中継するって、日本では1985年に豊田商事会長刺殺事件てのがあったけど。あれはテロじゃないけど、ライブで中継してたもんね。その事件を思わず思い出した次第。

セプテンバー5


スリリングな展開でひやひやヤキモキ!

ハラハラドキドキの90分は目が離せない!

さて、お話はABCテレビのスポーツ番組のチームが事件に気づき、選手村にカメラとスタッフを潜入させ、実況中継を強行する。現場のディレクター、スタッフ、通訳、上司、アンカーと連携プレーで生々しい報道をテレビで敢行する。だが、その中継のせいで犯人に警察の動きが丸わかりだったりして、ひやひやさせられる。アメリカの本社からは番組枠を返せ、と言ってくるし現場トップの強気の交渉にもヤキモキしきり。

もう観ていてハラハラドキドキのサスペンスだ。つきつぎ猛スピードで現場の現状が変化していき、それに臨機応変で対応するABCのスタッフたち。また、事件当事者の人権や家族の立場、報道した結果の責任など、報道の自由だけで納得させられるのか? と問題提起ももちろんあり、深く考えさせられ、答えはでない。しかし、観た自分なりに考えることは大切で、観終わって議論ができそうな作品である。

セプテンバー5

スクープか、使命感か、報道の是非を問う

問題作であり、エンタメ作!!!

しかし、この事件あたりから過激な報道がヒートアップするようになったのではないかとも思う。人は過激なものを観たがる生きものである。人々の欲望を満たすように、近年過激な報道は増えてきている。なるべく、私はそういうものを観ないようにしている。

ショッキング、過激、ネガティブな映像をたくさん観ているとなにかを選択する時ネガティブな方を選んでしまう。と読んだことがあるからだ。津波の映像や戦場のリアルな映像などぼんやりニュースを見ていると知らぬ間にそういう映像のシャワーを浴びることになる。

本作は53年前の事件の報道姿勢を描いているが、スタッフは激しく葛藤しながら実況中継した。いまは、そんな葛藤が少なくなってきているのでは?  いや、コンプライアンスがうるさいから、葛藤なくそもそも流さないか? 報道という表現についての踏み絵のような社会派問題作である。



監督・脚本 ティム・フェールバウム

脚本 モリツ・バインダー アレックス・デビッド

出演 ピーター・サースガード ジョン・マガロ ベン・チャップリン

レオニー・ベネシュ ジネディーヌ・スアレム ジョージナ・リッチ

※91分

※2月14日(金)から全国ロードショー





  

  

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