一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.266「銀河鉄道の父」

銀河鉄道の父

宮沢賢治とその家族の物語

イコン画のような静謐さにただ涙……!!!

号泣しました……。最近の日本映画には珍しい、本物を揃えたリアリズムを追求した作品にその世界に入り込み、宮沢賢治の父をはじめとする家族の物語に浸り泣きに泣いた……。本作は門井慶喜の同名の直木賞受賞作を原作としている。原作も緻密な取材に基づかれて書かれたものらしいが、映画もそれを外していない。賢治の育った家や別荘、家具や調度品、ランプ、持っていた鞄、衣装など当時を可能な限り再現したアイテムや場所を使っていて驚く。

宮沢賢治といえば、明治期の有名な詩人で童話作家だが、父、政次郎(役所広司イイ!!)が溺愛していたということなど知らなかった。父親は賢治が長男として生まれた時、狂喜した。そして、3歳の頃に赤痢になって入院した時、18歳の時にチフスで入院した時と二度も自分がつきっきりで看病した。そのために政次郎も感染し、そのことを賢治は生涯負い目に感じていたそうだ。その政次郎の視点を中心にしながら賢治の生涯を描くのだが、賢治の生涯を語るのに外せないのが妹トシの存在と死だ。


銀河鉄道の父


妹、トシの激烈さと兄への一途な信望

また、賢治のトシへの深い愛

質屋を営む裕福な家に生まれた賢治は、体が弱く、父親に溺愛され幼い頃から仏教に触れていた。成長して実家の質屋を継ぐことになっても身が入らず星や鉱物や文学に興味を持っていた。そんな賢治を父親は残念に思いながらもトシの助言もあり、好きなようにさせる。唯一、賢治の書く童話を好み理解して応援していたトシだが、結核に倒れる。トシを演じた森七菜が素晴らしい(演技賞必至)。胸を打つ演技で涙を誘う。

また、認知症になって暴れる祖父の頬をトシが叩き「綺麗に死ね!」と言って抱きしめるシーンも驚きつつ泣いた。すごい言葉である。宮沢家は賢治を支え、世に出すために生まれてきた人々の集まりかもしれないそして賢治の死。父親も母親も賢治に対してどこまでも愛情深い父と母であった。父親ばかり賢治の面倒を見ているようだが、母親も、賢治の世話をしたい。

だから、「最後に賢治の体を拭くのを私にさせてください」と、夫に言う。ああっなんて愛された息子よ。その家族の姿に私たちは号泣するしかない。仄暗いランプに映し出される(照明、撮影特筆の仕事!!)、それはまるで家族の童話のようだ。今、家族の絆が薄れつつある現代に提示される美しい家族の有り様。それもあって私たちはこの映画を宮沢賢治とともに愛し続けていくことになるだろう。宮沢賢治という人の善性を思わずにいられない、佳作である。

銀河鉄道の父


監督 成島出 

原作 門井慶喜

脚本 坂口理子

出演 役所広司 菅田将暉 森七菜 坂井真紀 田中泯 豊田裕大 池谷のぶえ

水澤紳吾 益岡徹

※129分

©2022「銀河鉄道の父」製作委員会

※5月5日(金・祝)から全国ロードショー



  

  

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