不法滞在で生き抜く擬似姉弟
不正義が横行する世の中をシビアに描く佳作!
ジャン=ピエール&リュック・タルデンヌ兄弟の最新作。社会派の彼らの作品はいつも私を唖然とさせ、とまどわせ、感動させる。作品を発表すればほぼ賞を獲得する彼ら。今作も第75回カンヌ国際映画祭の75周年記念大賞を受賞している。しかし、今回の作品はとても厳しい作品だ。正直暗澹とする。ここで描かれる状況はシビアで現実だ。それを観て、私は……と自身の行動を試されるような作品である。
ベナンとカメルーンからベルギーに渡ってきた少年のトリと十代後半のロキタ。ふたりは本当の姉弟ではないが、諸事情から姉弟のふりをしている。しかし、ふたりは本当の姉弟よりも強固な愛情と絆で結ばれていて、この過酷な異国で不法滞在者としての生活を助け合って生き抜いている。ふたりの表の顔はイタリア料理店での歌の披露だが、裏ではドラッグの運び屋で金を稼いでいる。ロキタはカメルーンの家族への送金や、密航斡旋業者への支払い、ビザ取得への準備、ドラッグ運び屋のボスからの性的な強要と、まさに心休まる暇もない。そんな中でトリと寄り添うつかの間が喜びだ。しかし、ロキタは偽造ビザを取得して正規の仕事につくために、麻薬の栽培という闇組織の仕事に手を出すのだが……。
トリの行動にハラハラドキドキ
見入ったままあっという間に終わる
なんでタルデンヌ兄弟の作品に出てくる人たちは主人公に対して辛く酷くあたる人ばかりなのかと、今更ながら思う。みんな非情なのだ。それが紛れも無い真実なんだろうけど、見ていて苦しくなる。彼らふたりが次はどんな酷い目にあうのか、観ていてハラハラドキドキする。そんな中でも勇気と智恵で果敢な行動に出るトリにはヒヤヒヤさせられながら、目が離せない。こんなサバイバル能力は日本の子供たちには皆無ではないかとも思わせられる。
相変わらずの音楽なし、新人俳優の起用、ドキュメンタリータッチ、短い長尺(89分)という語り口は見入ったままあっという間に終了する。えっというラストは驚くが、これが現実であり、救いなのかと気持ちをなんとか納得させる。
地球のネガティブな波動を手放して
自己の考えを確立することの大切さ!
不法滞在の問題ならず、世界中には様々な問題が山盛りある。それらを題材に様々なコンテンツは作られる。以前はなぜこんな問題が? といつも思っていたが、今は違う。並木良和さんの著作を読んでなるほど、と考え方が広がった。このトリニティWEBのサイトでも並木さんの考えは喧伝されているので、理解されている方も少なくないだろう。すべては地球のネガティブな波動であり、自分自身が望んで見たいものを映し出しているだけなのだ。だから、ネガティブな波動を手放すことが大切なのだ。
並木さんの考えについてここでは詳しく書かないが、タルデンヌ兄弟のメッセージで「この映画を観終わった観客が社会に蔓延する不正義に反旗を翻す気持ちになってくれたら」とある。反旗を翻す、のではなく、私は私の軸をしっかりさせていくことが大事なのだと今は思う。それから反旗を翻すか、何をするか、のことだと思う。「世界平和を願うなら、戦争反対を叫んではいけない。平和運動をしましょう」とマザーテレサは言っている。本作を観て、私は私のやれることをしていこう、と確信したのだ。自身の信条について深く問われる佳作である。
監督・脚本 ジャン=ピエール&タルデンヌ
出演 パブロ・シルズ ジョエリー・ムブンドゥ アウバン・ウカイ ティヒメン・フーファールツ
※89分
※3月31日(金)から全国ロードショー
©︎LES FILMS DU FLEUVE – ARCHIPEL 35 – SAVAGE FILM – FRANCE 2 CINÉMA – VOO et Be tv – PROXIMUS – RTBF(Télévision belge)
Photos ©Christine Plenus