大感動のファンタジーミステリーの傑作!!
心地良い涙で終わるラストの余韻
本作の原作は以前読んでいて、そのミステリー構成と、キャラクターの深み、いじめのリアルさ、感動ポイントなど、ラストはもう「えっえっえーっ」という驚きでいっぱいになり、読み終わって「すごいよ……。こんなの読んだことない!!」と嬉しい悲鳴をあげた。そして、教えている学生にお薦めしまくった。読んだ学生も大絶賛という感想ばかり。幸せな読書時間を過ごした。私はその後辻村深月さんの小説を多数読んだが、一番面白かった長編は本作だ(短編集もお薦め)。
そんな原作がアニメ化されると聞いて、不安。あーっちゃんと原作の旨味を映画化してくれるのか? これは原作ファンは誰しも思うもの。そして、監督が原恵一と知り、「大丈夫かも?」となった。そして観た本作!!! 大丈夫どころか、原作通り、そしてラストは原作を上回り、私は滂沱の涙を流してしまった!!! やはり、アニメは爆発する見せ場が必ずあるものだけど、それはラストに見事に爆発する。原作は静かな驚きだったけど、その感動の爆発は、満足の余韻とともに私を笑顔にした。アニメも原作同様、傑作です。
鏡を抜けて入った城。そこには6人の中学生。
巧みな脚本で描く彼らの心の傷
酷いいじめから学校に行けなくなった中学一年生のこころ。ある日家の鏡が光りだし、その中へ引っ張られてしまう。目覚めた場所は海の中に聳え立つ中世風の城。狼の仮面をかぶった少女に連れられて城に入るとそこには6人の中学生の少年少女がいた。「オオカミさま」と呼べ、という仮面の少女は「願いを叶えたかったらこの城に隠されている鍵を探せ」と言う。期限は1年間。9時から5時までは鏡を通っていつでもこの城に来れるという。こころたちは最初とまどうが、皆叶えたい願いがあるらしい。また、皆どうやら学校に行っていないようだ。こころたちは段々と打ち解けていくのだが……。
なぜこの7人が集められたのか? 彼らの願いは何か? なぜ彼らは学校に行っていないのか? それぞれの事情は原作では詳しく語られるが、本作ではワンカットでそれが語られたりして、字と映像の表現の違いに今更ながら驚く。そして映画の省略の美学に感心した(もちろんこれは巧みな脚本あってのことだけど)。
巧妙な展開は大人向けかも?
辻村ワールドの完全映画化は大成功!!
こころに対するいじめの残酷な表現にちょっと驚いたが、映画は淡々とこころの状況を描いていく。とても冷静で体温の低い展開。こころがそうなのだ。しかし、それはすべてラストに向かって集約されていく。すべての謎が解かれるラストは絶大なカタルシス!! 私はこころより、リオンのエピソードに泣いてしまったのだけど。
私は原作を読んでいるのでふむふむと観ていたが、最初から張られている伏線には注目。ぼーっと観てたら見落とすだろう。また絶妙に謎をばら撒いているから、それもこの物語の重要な鍵なのだ。しかし、原作で「してやられたーっ。そういうことか」という感慨は本作でも再び感じてしまった(単にラストの謎を忘れてただけか?)。素晴らしいファンタジー、ミステリー体験をさせてくれる本作。その極上、巧みさは大人向けかもしれない。
監督 原恵一
原作 辻村深月
脚本 丸尾みほ
出演:當真あみ、北村匠海、吉柳咲良、板垣李光人、横溝菜帆、高山みなみ、梶裕貴 / 芦田愛菜 / 宮﨑あおい
※116分
©2022「かがみの孤城」製作委員会
※12月23日(金)公開 大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマほか