一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.261「ラーゲリより愛を込めて」

ラーゲリより愛を込めて

クライマックスは号泣必至の感動巨編!!

シベリアから戻った男の魂に心揺れる

こういう戦時下の話はどうも泣いてしまうので、今回も泣かないでおこう、と思いながら試写に出かけた。でも、やはり、ラスト泣いてしまった。

がまんしていたのが、ふいっと涙腺がゆるむ。今まで全然泣かずに冷静に見ていたのに、ラストでうっときてしまった。がまんせず、泣くことも大切だ。

1945年。スパイ容疑で逮捕された山本幡男はシベリアの強制収容所に送られる。

妻と4人の子と大陸で幸せに暮らしていたのに、突然の別れ。日本に帰った妻子の元へ戻るために、山本は劣悪な収容所で常に前向きに生きていこうとする。

しかし、そんな山本の態度を快く思わない軍曹や、山本をスパイだと嘘の密告した男など、周りの人間関係は複雑だ。それでも次第に山本の明るい態度に周りも感化されていくのだが……。

ラーゲリより愛を込めて

   

60万人の日本人捕虜たち

6万人が劣悪な環境で命を落とした

シベリアの強制収容所(ラーゲリ)に抑留された日本人のことは知っていたが、それが戦後11年も(1956年末に全員引き揚げ)延長されていたことは知らなかった。

これはソ連と日本が国交を回復できなかったことと、ソ連が自国の労働力不足を補うために日本人の捕虜を使ったためという。怒り。である。

ソ連……。北方領土も返さんし、ほんといろいろやってくれる国だ。

本作は、実話を元にしている。

山本たち捕虜は何か紙に記録したり、持ち帰ることは禁止されていた。

その言葉を山本の周りの人々が妻子に伝える展開である。

シベリアの冬は氷点下40度になるという極寒の地である。父親が戦争に行ったのでシベリアの捕虜のことも聞いたことがあった。トイレの便が凍って下から氷柱になるので、何も考えずにしゃがむとその氷柱で尻を突いて出血し、それで命を落とす捕虜が何人もいたそうである。

このような状況で強制労働をさせられた60万の日本人。その中には海辺で魚をとっていただけの猟師も含まれていた。山本のスパイ容疑も冤罪だ。ここで約6万人の捕虜が亡くなったそうだ。

そこでの生活が厳しくリアルに描かれる。そして、ラストのクライマックス。

ラーゲリより愛を込めて

  

山本の妻の態度に感動!!

先人の日本人の姿に私たちは想い馳せ……。

まず、知ることが大切なのだ!!

私が涙したのは、山本の妻の態度だ。山本の帰還を待ちわびたのに、辛い知らせ。

しかし、妻は毅然と子供たちに父の死を伝え、次には庭に転がり出て叫び号泣する。

北川景子、素晴らしい。

次々と現れる収容所の仲間たちの口から語られる山本の遺書。ここで涙腺決壊です。

帰りたかっただろうな、ほんとうに。でも、死んで皆、体から魂が抜け出て、山本も妻子の元に帰ることができたのだ。よかった。よかったのだ(このレビューを書きながらも涙涙……)。

このような、先の戦争で日本人たちがどのようにして戦中前後を過ごしたのか、それらを私たちはあまりにも知らない。こうして映画で確認することも大事なことである。

そして、涙を流し、彼らに想い馳せ……。

心乱れる佳作である。

  

  

監督 瀬々敬久

原作 辺見じゅん「収容所から来た遺書」

脚本 林民夫

出演 二宮和也 北川景子 松坂桃李 中島健人 寺尾聰 桐谷健太 安田顕

※134分

©2022映画「ラーゲリより愛を込めて」製作委員会 ©1989 清水香子

※12月9日(金)全国東宝系にて公開

  

  

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