一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.260「シスター 夏のわかれ道」

シスター

突然現れた弟。姉になりたくない私……号泣必至!

女性監督が描く中国の今は普遍的な世界の今!!

 

号泣しました。

この映画で流された涙の美しさ、きらめきは私の中に楔のようにしばらく残ると思う……。

現在の、過去の、全ての女性に向けた問いかけであり、慰めであり、エールである。そして、感謝も。

女性脚本家、監督による大感動作だ。

本国中国では「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」を越えて大ヒットしたという。

ハリウッド映画より自国のリアルを描いた作品の方がそりゃ支持されるだろうけど、女性監督による作品となったらちょっとしたニュースである。

こういう映画を見られる日本に住んでいてほんと幸せだと感じた。

最近、ほんと何事も感謝だなあ、と思う日々。

あたりまえのことなんかないんですよね~。

 

さて、お話を少し。

疎遠だった両親の交通事故死の知らせ。

看護師のアン・ランは冷めた思いでその知らせを聞く。

そして、葬式に連れられて来たのは歳の離れた6歳の弟。

初めて会う弟はまだ両親の死を理解できずわがままばかりでアン・ランをイラつかせる。

しかも、親戚連中は姉であるアン・ランが養育しろと迫ってくる。

医者になるために北京の大学院進学を目指していたアン・ランは弟を養子に出そうとするのだが……。

 

シスター

   

アン・ランの怒り、叔母さんの諦観

涙ですべて溶けて許されるといいな
 

このアン・ランがものすごい攻撃的。

気がむちゃくちゃ強い。

まだ幼い弟が、気に入らないと過激な言葉と行動でバトル。

従姉妹や叔母さんにもいつもけんか腰の言い合い。

勤め先の病院の女医の物言いにもひっかかったらとことん問いただす。

それを止める恋人の態度にも反発して非難ごうごう。

怖いよ。中国の女性は……とその強靭さとストレートさに唖然。

しばし、引く……。でも、それにはちゃんと理由があるのだ。

一人っ子政策で女の子だったために、両親に愛されなかった自分。

でも、弟は両親の愛を一身に受けていたことへの嫉妬。

女だからと犠牲的な生き方を勧めてくる伯母への怒り。

医者より看護師を下に見ている女医への怒り。

それを打破するために、医者になる勉強をしようと固く誓っているのだ。

とにかく、アン・ランは怒っているのだ。

いつもピリピリ。でも、それが弟との交流で、伯母さんの過去の告白で、溶けていく。

本作はいかに、アン・ランの怒りが氷解していくか過程が見所だ。


シスター

 

女性たちは耐えてきた。でも、そこに

愛も喜びも幸せもあったのだと信じたい
 

叔母さんが自分の犠牲的な半生をアン・ランに語りながら、スイカの美味しいところだけをスプーンで

すくってアン・ランに出すシーンが泣ける。

伯母さんは男が優遇される社会のために自らの望みを諦めてきた、私たちの母であり、姉である。

そんな伯母は、アン・ランにそうなるな、と伝える。

伯母の悔しさと優しさにアン・ランは涙する。

アン・ランと弟(見事な自然演技! 当時4歳半だったそう)の親しくなっていく過程も見所。

そして、ラスト。

アン・ランの選択に涙涙!! このシーンの演出も素晴らしい!!!

今も世界中に叔母さんや、アン・ランがいる。

彼女たちは怒って、闘って、悩んで、迷っている。

まだまだ、この闘いはつづく……。

傑作です。

 

監督 イン・ルオシン

脚本 ヨウ・シャオイン

出演 チャン・ツィフォン シャオ・ヤン ジュー・ユエンユエン ダレン・キム

※127分

※11 月 25 日(金) 大阪ステーションシティシネマほか全国公開

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