一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.258「天間荘の三姉妹」

天間荘の三姉妹

臨死状態で選ぶ生か死か?

狭間の不思議な街での感動ファンタジー!!

 

天間荘という由緒正しい大きな旅館がある。

そこへ、少女が謎の女に連れられて泊まりにやってくる。

少女はたまえといい、この旅館の長女のぞみと次女かなえの腹違いの妹だ。しかし、お互い会うのは初めて。

のぞみたちの母親の女将はかなえの来訪を快く思っていない。

たまえは9歳の時に唯一の肉親の父親が行方不明になり、天涯孤独で生きてきた。

そして、交通事故に遭い、なんと、今臨死状態なのだ。

たまえは謎の女に「ここで魂の疲れを癒して、肉体に戻るか、そのまま天界へ旅立つか決めたらいい」と言われとまどう。

そう、ここは天界と地上にある街の不思議な旅館。

ここへ来た人は自分の来し方を選ぶ。

たまえは思案し、ここで働かせて欲しいと頼み旅館で働くことになるのだが……。

高橋ツトムの人気漫画が原作。

監督は「あずみ」や「スカイハイ劇場版」の北村龍平。

ハリウッドに行ってたと思ってたら久々の日本映画。

またアクション映画監督の印象が強かったが、今回ヒューマン感動作を撮りあげた。

ラストは涙が溢れた。

のん(たまえ役)、の頑張りと、イルカとの交流(大特訓を重ねたそう)に感動してしまった。

奇跡的なラストショットは今も目に焼きつく。

のんは、「さかなのこ」といい、水関係や海の生き物は開運アイテムのようだ。

 

天間荘の三姉妹

 

辛い現世の日々。でも、希望は必ずある。

この世にいられる間はこの世を堪能しよう!!

 

臨死状態の人間が生きるか、死ぬかを選ぶ、という設定が今風だ。

実際には戻ってくるパターンがほとんどだろう(でないと臨死体験は語れない。ま、前世の記憶がある人は語れるけど)。

でも、そういうことを置いといてファンタジー作として描かれているし、一部本当のことや、理想的なことも描かれているので、とても人の心を打つ話となっている。

生と死の境界線の話はいつも人の心をざわつかせる。

旅館で働くことになったたまえが出会う人々は皆現世に帰ることをためらっている。

たまえもだ。

現世で生きることは辛いことが多い。

旅館の宿泊客で自殺した少女(山谷花純の演技が泣かせる)の表情がその傷を物語る。

また、この街の人々の事情も次第に解き明かされていく。

どれも、辛い話だ。

でも、ラストはとても暖かな気持ちにさせられる。

生きている期間はほんとうにあっという間だ。

短くても長くても、それは魂が決めたことなのだ。

未練を残して死んだ魂も、いずれ天界へ戻り、また生まれ変わることを選ぶかもしれない。

私たちの魂は生き続ける。

現世にいられる期間はこの世界を堪能しよう! と改めて思わせてくれた一作である。

 

天間荘の三姉妹

 

監督 北村龍平

原作 高橋ツトム

脚本 嶋田 うれ葉

出演 のん 門脇麦 大島優子 高良健吾 山谷花純 永瀬正敏 寺島しのぶ 柴咲コウ

※150分

※10月28日(金)から全国ロードショー

 

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