一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.254 「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」

ワンセカンド

映画的面白さと優しさに満ちた佳作!!
チャン監督の実体験と映画愛がふんだんに!

北京オリンピックの開会式、閉会式の演出をしたチャン・イーモウ監督最新作。
前作「SHADOW影武者」ではどうしちゃったんだろう?? と戸惑ったが、本作は「初恋の来た道」に連なる感動ヒューマンドラマになっていて、久々に監督作で大泣きしてしまった。
本作は監督が文化大革命の頃に下放された時の実体験がふんだんに盛り込まれている。
そして、映画への愛も詰め込まれた作品だ。
フィルムの編集時に使われるスプライサーも登場して懐かしい思いが一杯になった。
ラストまで映画的面白さと、優しさに満ちた佳作であった。

1969年のある地方都市。文革の真っ只中の頃。
最初、演劇的な演出で始まる。古びた店の前に怪しい男が回りを警戒しながら登場。
店の前に止められたバイクに詰まれたフィルム缶を確認。
と、そこへ浮浪児のような少年が現れフィルム缶の一つを盗んで逃げる。
男は驚いて店の中のバイクの持ち主に告げようとするが、迷った挙句少年を追いかける。
捕まえてみると少年は少女で、砂漠で少女と男は缶の取り合いのいたちごっことなり、目が離せなくなる。
広大な砂漠が何度も出てきて、開放感と無常観が刺激される。
男は何者なのか? 少女はなぜ缶を執拗に盗もうとするのか? また、男もなぜそんなに缶に執着するのか?
謎を引っ張り、夢中になった。

ワンセカンド

 

男と少女はなぜフィルム缶に執着する?
男の娘への愛と少女の孤独にうるるっ

そのフィルム缶は、映画のフィルムが入っており、農村では映画の上映会は皆が楽しみにする一大イベントなのだ。
フィルムを回す映写技師は王様のように振る舞い、村人たちに慕われている。
やっとのことでフィルム缶を取り返した男は上映される村の映写技師に缶を返すのだが……。
男がなぜフィルム缶に執着するのか、それは映画に一秒だけ写った娘の姿を見たいため。
そのために男は逃亡してきたのだ。
しかし、トラブル続出でなかなか映画を観ることができない。
終始ハラハラさせられる。上手く行きそうになったら次々問題が出てくるのだ。
その間に少女の事情、男の事情が明かされていく。

ワンセカンド

 

何度も泣かされて感動のラスト!! 巧いっ!
巧すぎるけど、あざとくないのが素晴らしい!!

巧いなあ~。もう、職人技!!
観客を引っ張っていく手腕はさすがだ。
そして、感動も巧いんだけど、あざとくないのが素晴らしい!!
少女の涙に、男の泣き濡れた顔に、映写技師の温情に何度も涙が流れた。
フィルムの処理のシーンや、スプライサーでのフィルム編集シーン、村人たちの夢中で映画を観る歓喜の顔顔、美味しそうな平たいラー油のかかったうどん、どこまでも美しく冷たい砂漠、役者3人の演技……見所満載である。
そして、ラスト。え~ひどいーっと思った。
けど、ちゃんと優しいラストが用意されていた。それでいいんだ。
最後の最後まで心憎い演出でもう、泣きましたよ!!

 

監督・脚本 チャン・イーモウ
脚本 ヅォウ・ジンジー
撮影 チャオ・シャオティン
出演 チャン・イー リウ・ハオツレ ファン・ウェイ
※2020年/中国/103分/中国語
© Huanxi Media Group Limited
配給:ツイン
※5月20日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ 他全国公開

 

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