一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.247 「クレッシェンド 音楽の架け橋」

クレッシェンド

憎しみには憎しみしか返ってこない
敵対する団員たちの変化に涙!! の感動作!

次に第三次世界大戦が起こるなら、ここから、と言われているパレスチナとイスラエル。
今も紛争が終わることなく、互いに憎悪をむき出しにして日々闘っている二つの民族。
日本からは遠いが彼の国の状況を知っておくことは地球に住む私たちには必要なことだと思う。
ユダヤ人が19世紀末にパレスチナに移住を始め、先住のパレスチナ人ともめた。
パレスチナという土地をめぐっての争いは戦争になり、今はイスラエルは国の大部分を占領し、その支配下に置かれるパレスチナ人。イスラエルはアメリカの支援もあり、戦車など圧倒的な軍備を持つ。
しかし、パレスチナは軍備もなく、戦車に石を投げて応戦するという無力な状態だ。
和平への道は遠く、支配下に置かれるパレスチナ人の不満と憎しみは募るばかり。
映画の背景は(簡単に言うと)こういうヘヴィなもの。

このイスラエルとパレスチナから若き音楽家をオーディションし、オーケストラを編成しコンサートを開く、という企画が持ち上がる。引き受けた著名な指揮者スポルクは20数名の若者を選ぶが、パレスチナ人とユダヤ人、半々の彼らは互いに心を開くことなく、激しくいがみ合う。当然音も合うことなく、スポルクは南チロルでの合宿で彼らの壁を取り除こうとするのだが、彼自身にも秘密があり……。

クレッシェンド

 

迫害されるパレスチナ人の状況に驚愕!
興味深い和解のワークの威力

冒頭から、街中での銃弾の音が響く中、ヴァイオリンを無心に弾くヒロインが映し出され、パレスチナ人の心穏やかではいられない日常に驚く。オーディションを受けにテルアビブに行くのにも、厳しいイスラエル側の検問を通らなくてはならない。
人権無視、問答無用の検問での扱いに唖然。しかし、これが日常茶飯事なのだ。
気の強いパレスチナ人のヒロインと、ユダヤ人の有名ヴァイオリニスト。ふたりの反目を中心に、もめまくる団員たち。
正直罵りあう彼らを見ていると泣きそうになった。噛み付きそうな顔をして罵倒しあう、その憎しみの表情の醜さ、悲しさ。もう、止めて! と叫びそうになった。
いがみ合う姿を見ることはこんなにも耐え難い。見たくない。憎しみを出せば憎しみしか返ってこない。
指揮者の興味深い和解のワークでだんだん変わっていく彼らを見るのがどれだけホッとしたか。
しかし、そんな中惹かれ合う男女がいて、ひやひやする。爆弾のような彼らの行動にハラハラさせられるのも、巧妙な作りだ。

クレッシェンド

 

千の言葉を尽くすより彼らには音楽が!
希望を示唆するラストに大拍手! アンコール!

しかし、現在も解決することのない民族の問題は映画だからと言って安易に解決させるラストはやはり用意されていない。しかし、そのキツいが、希望を感じさせるラストには滂沱の涙だった。千の言葉を尽くすより、音楽が橋を渡してくれる。清々しい涙だったことに安堵した。
実際にユダヤ人とパレスチナ人混合のオーケストラがあり、世界中でツアーを行なっている、という事実に着想を得て作られた映画だが、見事な帰結を見せてくれる佳作の仕上がりだった。

監督・脚本 ドロール・ザハヴィ
脚本 ヨハネス・ロッター
出演 ペーター・シモニシェック ビビアナ・ベグラウ ダニエル・ドンスコイ サブリナ・アマーリ
メフディ・メスカル エーヤン・ピンコヴィッチ ゲッツ・オットー
※112分

© CCC Filmkunst GmbH
※2022年1月28日(金)
大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹ほか全国公開

 

《一宮千桃さんの記事一覧はコチラ》
https://www.el-aura.com/writer/ichimiyasentou/?c=26311

 

#クレッシェンド #音楽の架け橋 #一宮千桃 #イスラエル #パレスチナ