おもしろかったあ~! と劇場を後にできる久々のスリリングエンタメ作!!
久々に面白い邦画のエンタメ作を観た、という感想。
最近の日本映画って……なので。
さて、本作、舞台は大手出版社の編集部ということで、私も雑誌の編集部にいたので懐かしい気持ちでふんふん、と見入ってしまった。
始まりからテンポがいい。新人編集者の高野が早朝出社して、コーヒーを入れて新人文学賞の候補者の小説を読み始める。そこへ社の社長がジョギングする様子が挿入される。二者は交互に映され、高野のページを繰る手が早くなると同時に、社長の動悸も早くなり、次第にあえぎだす。
高野が掛かってきた内線で受話器を取る際にコーヒーを引っ掛けて落とす。社長は胸を押さえて倒れる。
と、ここまで引き込まれる導入部で、さすが、吉田大八監督。面白くなりそう! と期待が高まる。
社長は亡くなり、老舗大手出版社「薫風社」は次期社長をめぐり権力争いが勃発。
社内は大揺れになる。改革派によって売り上げの悪い雑誌は次々廃刊に。
カルチャー雑誌「トリニティ」の新任編集長、速水は廃刊危機に立たされながら、文芸誌編集部の高野を引き抜き、斬新な企画を次々打ち立て成功させていく。しかし、速水の強引なやり方に高野は反発し……。
大泉洋好演! 豪華キャストのアンサンブルで魅せる理想のラストと痛快ラストショット!!
原作者が大泉洋をあてがきして書いたと話題になっていたが、こういう海千山千の感じって大泉洋にぴったりかも。人を何食わぬ顔で騙して出し抜いていく速水は痛快で小気味良く、大泉の軽い印象がはまった良い例だろう。
対して高野役の松岡茉優は騙されながらも反撃していくのだが、これも気骨が感じられて良い。他にも豪華キャストで、演技合戦が楽しめる。
でも、何より面白いのは仕掛けられた騙しの数々だろう。スリリングな展開に小さなどんでん返しが続き、ラストはほっこりさせられる。本好きには理想的なラストかも。
そしてラストショットに「えっ!」。
街の本屋さんがどんどん閉店していってるが、高野の家も本屋を父親が経営している。
でも、立ち読みの子供や老人が客だ。高野はそんな本屋に愛着がある。また、本を買ってくれるお客さんにも愛着がある。
彼女のそんな思いを本作は大切にしている。
楽しませて、感動させて、理想の未来を提示して、それはほんとに理想にすぎないかもしれないけれど、ありえないことではない。
おもしろかったあー、と笑顔で映画館を出ていきたい。それだけ。
今そんな映画が少ないので、本作は貴重である。
監督・脚本 吉田大八
脚本 楠野一郎
原作 塩田武士
出演 大泉洋 松岡茉優 佐藤浩市 木村桂乃 宮沢氷魚 池田イライザ
坪倉由幸 國村隼 佐野史郎 小林聡美 塚本晋也 中村倫也 リリー・フランキー
※113分
©2021「騙し絵の牙」製作委員会
※2021年3月26日(金)全国公開
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