一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.222 「スパイの妻」

スパイ

夫の告発に身を挺す妻は……。
ヴェネツィア映画祭監督賞受賞の秀作!

ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子(監督)賞を獲った本作。
黒沢清監督は国際的に評価の高い監督で、今回の受賞もうなずける。

私は彼のホラー的な作品「CURE(キュア)」「回路」がものごっつく怖くて底知れぬ不気味さを感じた記憶が久しく残ったままである。
以後の作品もなんか不気味さ満載で苦手意識がずっとあった(「トウキョウソナタ」は別です。美しい佳作です)。
今作もオリジナル脚本の物語で、不気味さは「回路」の片鱗もあり、相変わらずやな、と思いつつも、面白かったので夢中で観ました。

蒼井優の演技が圧巻で改めてこの女優は凄いなぁーっと確信。
ちょっと常軌を逸した感じが自然すぎてより不気味だった。
山ちゃん、幸せなんだろうか??

スパイ

 

どんでん返しのクライマックス
ラストの解釈は観客に委ねられるが……。

さてお話を少し。
1940年の神戸。
実業家の優作は美しい妻聡子と贅沢な暮らしを楽しんで暮らしていた。
しかしある日、満州に仕事で出向いた優作は、そこで怖ろしい国家機密を知ってしまう。
優作はそのことを告発しようと計画するが、妻の聡子に知られてしまう……。

これは、最初聡子の行動に驚くのであるが、それは杞憂で聡子は優作を誰よりも愛しているのだとやがて分かる。
そしてふたりの緻密な計画。
それがいつばれるのかハラハラさせられる。
画面は計算つくされた静謐な映像が理路整然と続き、ひたひたと不気味さが満ちるようである。
これは、一体どうなるんだろう? と先が読めないでいると、「えっ」という展開になって最後はきっとこうだよね? と観客それぞれの解釈に委ねられる。
私は楽観的なラストと信じたのだが。
でないと、この話自体救いがないではないか。

スパイ

 

白日に晒されるものと隠され続けるもの
聡子の夫への愛は真実だった

しかし、この時代に見てはいけないものを見てしまったら、黙ったままでいるのか、告発するのか?
その人の勇気を試されるところである。
しかも、告発すると失うものは莫大だ。
それでも人は告発せずにはいられない。
そうやって数々のことが告発されてきた。
今の時代はこの映画の時代より告発しやすい。
でも、いつまでも隠蔽されてきたことは今もまだ隠蔽されていることだろう。
しかし、隠されていなければならないことも多々あるのだ。
そのようなつづら織りのようになった世の中のしくみについてふと考えさせられる物語でもある。

聡子の夫への愛はまっすぐで強くてまぶしくて、そのぶれない姿勢にも彼女の佇まい同様惹かれた。
そういう愛の姿は今日本にあるのだろうか?

 

監督・脚本 黒沢清
脚本 濱口竜介 野原位
出演 蒼井優 高橋一生 坂東龍太 恒松祐里 みのすけ 玄里 笹野高史

※115分
©2020 NHK, NEP, Incline, C&I
※10月16日(金)より、新宿ピカデリー、シネ・リーブル梅田ほか全国ロードショー!

 

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