一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.221 「82年生まれ、キム・ジヨン」

82年生まれ

女性に生まれてのこの社会の受難
ジヨンのあがきと受容、そして再生に涙!

本作は日本でもベストセラー入りをしている韓国の大ヒット小説が原作で、たぶん多くの女性が共感感涙必至となる、感動作であり、秀作である。
私も、韓国も日本と同じで女性の前に阻む壁は強固なのだ、と何度も涙してしまった。

そして、ラストは元気をもらった。
ジヨンが再起してほんとうに良かった、と思えた。
それほどジヨンの日々は過酷で辛そうだったのだ。
ジヨンのような女性が日本にも韓国にも世界中にもたくさんいることだろう。
彼女たち、そして私自身も強くなることを願う……!

キム・ジヨンは結婚して2歳の子供がいる。
日々子供の世話に明け暮れる日々だ。
彼女のキャリアは結婚出産で断たれて今は働きたいと焦るが、どうにもならない。
しかし、そのストレスは妙な形で現れ始める。
「憑依」のごとく、別人になって目の前の人に意見したりするのだ。
たとえば夫の実家で正月に姑にこき使われていると、突然自分の母親になって「奥さん、家のジヨンを実家に帰してください。お正月に私も娘に会いたい」と姑に真顔で言ったり、夫婦の共通の友人に豹変し「ジヨンは気持ちが疲れているの。ありがとうと言ってあげて」と夫に言ったりする。
夫は心配するが、怖くてジヨン本人にはそのことを言えず、精神科受診それとなく勧めたりする。
ジヨンの勤めていた会社のチーム長が退社して起業すると聞いてジヨンは心がざわつく。
チーム長は結婚出産も経ながらチーム長になったジヨンの理想の上司だった。
ジヨンは会社でのことを回想する……。

82年生まれ

 

ジヨンとジヨンの母親は同じ
我慢と忍耐と自己犠牲の歴史

ジヨンという感受性豊かな女性がどんどん壊れていく過程が痛ましい。
彼女の少女時代から、また、彼女の母親の女性として生まれて我慢の半生もともに回想で語られ、その脈々と続く受難の女性史に胸が潰れる思いになった。
女だから、女は、女は虐げられて当然という風潮にため息だ。
ジヨンの回想シーンが絶妙に何度も入り、この少女が傷つき、いろんなことをおかしいと思いながらも流されてきたことが分かる。
私が涙したのは、彼女と母親とのシーンばかりだ。
ふたりの心は通じ合っている。
母親がジヨンの病気が分かって嗚咽するシーン。
ジヨンは母自身でもあるのだ。
多くのことを語らないふたりの姿にまた涙……。

82年生まれ

 

夢中で観てしまうジヨンの辛い日々
でも、ちゃんと「女」は復活するのである!

一体ジヨンはどうやって再生するのだろうと不安になる。でも、それはさらりと訪れる。
彼女がスタバ? で客に言い返す言葉にスカッとする。
傷ついて傷ついて彼女は強くなった。
自分で見つけるしかない。
こんなまだまだ女性にとっては生き辛い世の中だけど(今は男性にとっても生き辛いかもだが)、そんな世の中で生きていく醍醐味だってあるのだから。
それを見つけて生きていくしかないのだから。
世界中にいるキム・ジヨンにエールをくれる一作である。
夢中で観ました。

 

監督 キム・ドヨン
脚本 ユ・ヨンア
原作 チョ・ナムジュ
出演 チョン・ユミ コン・ユ キム・ミギョン コン・ミンジョン キム・ソンチョル
イ・オル イ・ボンリョン

※118分
© 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
※10月9日(金)から新宿ピカデリー他全国ロードショー

 

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