一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.220 「望み」

望み

消えた息子は悪人か善人か?
両親の「望み」がゆれる感動サスペンス!

堤幸彦監督は、もはや芸術家の域だな。
でも、そこは職人技とエンタメ性も損なわず、またしても心に残る佳作を作り上げた。

物語の主役の家族が暮らす家が素晴らしい。
建築家の父親の設計によるものという設定だが、内部は全てセットという。
お金持ちでカッコイイ家に住む建築家の父と校正の仕事を自宅でこなす美しい母、成績優秀の長女、サッカーが得意な長男。
この幸せを絵に描いたような家族に事件が起こる。

怪我をしてからサッカーをやめ、自暴自棄になってるように見えた長男が出かけたまま帰ってこない。
心配しないで、というメールを母親に残したまま音信不通に。
心配する母親は、一日たって長男の友人の少年が殺害され、現場から少年ふたりが逃走したというニュースをテレビで知る。
長男の無実を信じたい父親と母親だが、長男が加害者か被害者か現時点ではまったくわからない。
母親は加害者でも長男に生きていて欲しいと望むが、父親の気持ちは複雑で息子を信じることは彼が被害者=死を意味した。
マスコミの取材や近隣からのいやがらせも押し寄せ、家族は地獄のような日々を送ることに……。

望み

 

家族を象徴するような美しい家が
事件により汚され崩れていく……。

事件の加害者も被害者も世間にさらされ、容赦ないバッシングを受ける。
その過程が見ていて辛い。
まだ息子は加害者かも分からないのに世間は加害者だと思い込んで非情な対応をする。
まるで自分が裁くとでも言う様に家族を追い詰める。怖ろしい。
美しく、カッコイイ家の塀が落書きされ、卵をぶつけられどんどん汚れていく。
あれだけ整頓されて落ち着いていたリビングが雑多に散らかり、食卓には買ってきた惣菜やインスタント食品が並ぶ。

長男は生きているのか、死んでいるのか? 分からないまま家族の葛藤がゆらゆらと描かれる。
「望み」だから、生きているのか……? と、もどかしく画面を見つめるが、事態は意外な展開を見せる。

望み

 

笑顔で終わるラスト。
こういう魂の成長をする家族もいるのだ

本作は、珍しいラストで終わる。
この家族は長男によって救われるのだ。
そして、もちろん以前と同じではないけれど、家族は結びつきがより強固になり家族として人間として成長した姿を見せ、幕は閉じられる。
笑顔で終わるのだ。
なにか、新しい提案をもらったような幕引きである。
日本映画としてはあまり見ない結だ。
しかし、理想としてはこうであって欲しい、というラストなのである。
魂の成長だ。
皆、これから先も生きていかなくてはならないのだから。
悲しいことは、やはり一番人間を成長させる。
「望み」良いタイトルだ。

 

監督 堤幸彦
脚本 奥寺佐渡子
原作 雫井脩介
出演 堤真一 石田ゆり子 岡田健史 清原果耶 加藤雅也 市毛良枝
松田翔太 竜雷太

※108分
(C) 2020「望み」製作委員会
※10月9日(金)から全国ロードショー

 

《一宮千桃さんの記事一覧はコチラ》
https://www.el-aura.com/writer/ichimiyasentou/?c=26311