一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.219 「窮鼠はチーズの夢を見る」

窮鼠はチーズの夢を見る

男同士の恋愛ゆえの極上の切なさ
傑作BLコミックの完全映画化!!

見終わって、久々に切ない、やるせない気持ちになった。
「ああっなんとかならんもんか」とため息をついた。

しかしこんな気持ちにさせられたことに改めて「恋愛映画」の功徳をしみじみ味わった。
なんだか身体がゆるんだ。
身体が甘くなった気分。
この、切なさを抱えて家路につく心地良さよ。それは至福の時間だ。

水城せとなの原作コミックが映画化されると聞いて、いや~な気分と期待との半々で唸る。
監督は行定勲だ。うん。いいかも。
主演は先輩に大倉忠義、後輩に成田凌。んっこれ逆の方がいいのでは?
絶対逆だよね? と一人悶々するほど私はこの原作のファンだ。
水城せとなのファンだ(最近の少女マンガ誌連載の作品は全然ダメですが)。
そして複雑な気持ちで観た本作はほぼほぼ原作通り。
しかも逆じゃなくて良かった~! 大倉忠義、いいじゃんっ、すっごくいい!!
成田凌も超乙女しててめんどくさーなゲイなんだけど、そこがかわいいんだわっ!!
というわけで、合格点の映画化であったのだ。うん。

窮鼠はチーズの夢を見る

 

ノンケとゲイ ハードル高いパターン
ふたりの仲を阻む女の登場にイライラ

かわいい妻と順調な会社員としての仕事。そして都合のいい愛人。
女関係にだらしなく、流されるままの人生を送ってきた大伴恭一。
そんな彼の前に大学時代の後輩、今ヶ瀬渉が突然現れる。
興信所で探偵として働く今ヶ瀬は、大伴の不倫現場の写真を提示し、妻からの依頼と言う。
妻には報告しないでくれ、という大伴に今ヶ瀬は交換条件を出す。
それはキス。ホテルで仕方なくキスに応じる大伴に今ヶ瀬は「大学の時からずっと好きだった」と告白し何度もキスをしようとする。
なんとかその場をやり過ごす大伴だが、妻から「他に好きな人がいる」と告白されあっさり離婚。
独り身になった大伴の元に今ヶ瀬は足しげく通い、大伴はなんとなくそれを受け入れてふたりで暮らす日々が始まる。
しかし、大友はまだ愛人と続いていて……。

大伴はノンケなんだけど、ゲイの今ヶ瀬との生活が心地良くなってくる。
また、なんでも流される男なので、男同士のセックスも受け入れてしまう。
しかし、大伴は妙に女にモテるので、今ヶ瀬は常にヤキモキさせられて泣いたり家を飛び出したり文句を言ったり、普通の女より傷つきやすくて手がかかる。
「かんべんしろよ」と思いながらも大伴は今ヶ瀬の純情に心が揺れる。
今ヶ瀬は男だから、本気で付き合うには覚悟がいる。それは今ヶ瀬も分かっている。

ふたりがうまくいきそうになったら絶妙のタイミングで女が現れて、ふたりの仲がぎくしゃくしだす。
監督が言うに「刺客のように女性が登場する」。
まさに、ふたりの恋路を阻むのだ。
原作を読んだ時はイライラハラハラしたが、「邪魔が入る」これぞ恋愛映画の醍醐味なのだ。

窮鼠はチーズの夢を見る

 

きわどい描写もやらしくなくて、んっ?
ふたりがうまくいって欲しいと願う……。

ひょうひょうとした大伴を演じる大倉忠義が素晴らしい!
大伴を7年間想い続けていた後輩今ヶ瀬役の成田凌のアンニュイな風情、ねちこい視線、常にうるうるしてる小鹿のような瞳がキュートすぎ。ずっと先輩に対して敬語ってのもイイ。

ふたりの全裸のセックスシーンも、おっそこまで描くか! と驚きだ。
しかし、全然やらしくないのがなあ……。
やっぱBLものは女性監督だろうな(が、日本では無理か?)としみじみ思う。
でも、行定監督、頑張ってるよ。よくぞここまで描いた。

しかし、原作コミックは、これはまるで「文学」という傑作なんだけど、やはり映画はそこまでは踏み込んで描いておらず、エンタメとなっている。
ラストも違うのだが、これはこれで前述したがより切なさが残って素晴らしいものとなっている。
今、「恋愛」そのものが描くのもするのも困難な時代になってきていると思うが、やはり、同姓愛は別の意味で困難なだけに題材としては盛り上がる。
この切なさも、同姓愛ゆえの切なさなのだろう。
ああ、男同士って……ほんとかんべんしろよって感じです。

 

監督 行定勲
脚本 堀泉杏
原作 水城せとな
出演 大倉忠義 成田凌 吉田志織 さとうほなみ 咲妃みゆ
小原徳子 国広富之

※130分
配給:ファントム・フィルム
©水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会
※9月11日(金)より、TOHOシネマズ 梅田 ほか全国ロードショー

 

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