一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.218 「青くて痛くて脆い」

青くて痛くて脆い

展開が見えない面白さ!
理想を堂々と掲げるヒロインに共感!

素敵なタイトル。
そして、作品の内容をそのまま現わしたようなタイトルだ。

本作は原作が「君の膵臓をたべたい」の住野よる。
彼の作品はどれもタイトルが良い。
映画を観る時はほぼなにも情報を入れずに観るのだけど、本作も杉咲花が出てるので楽しみに観に行った(彼女は髪をボブにしてからすごくイイ! 前は嫌いだったのだが今は注目している)。
そしたら全然先が読めなくて、「えっこれなんの映画?」と戸惑いながら、でも、そのどこへ連れて行かれるのか分からない感が心地良く見入ってしまった。
ラストも素敵なラストで、観客にその後を想像させて秀逸。
監督の狩山俊輔って何者? と思ったら「俺のスカートどこいった?」や「知らなくてイイこと」(どちらも秀作)といったドラマを監督した人で、本作が映画デビュー作なのだと。いや、才能おおありだろっ。

青くて痛くて脆い

 

ふたりの間に何があったのか?
楓の前から姿を消した秋好は……。

主人公の田端楓は人との距離をしっかりとって、あまり人に踏み込むことを良しとしない、まあ今風の大学生。
その楓が大学の教室で見かけた痛い女子、秋好寿乃。
「この世から暴力がなくなったら世界は平和になると思います」
教師に向かって真っ直ぐ発言する秋好。
周囲が引いてしまうような青臭い理想を、平然と口にする彼女は周囲から浮きまくる。
しかしそんな彼女に声をかけられ、楓は戸惑いながらも彼女のピュアさに惹かれていく。
そしてふたりで作った世界を変える、という目標を掲げた秘密結社サークル「モアイ」。
ふたりの活動は地味ながらも充実していた。
しかし3年後、そのサークルは当初の目的とは違った巨大サークルとなり、秋好は楓の前から姿を消していた……。

この3年の間に何があったのか? 話は恋愛もの? と思わせサスペンス?
あれっ推理もの? いや青春ものか? と翻弄させられる。
しかし、これはやっぱり、恋愛ものなんだろう、と思う。
素敵な女の子に恋した不器用な男子のひねくれた恋心。
と、同時に私はこの映画は大切なことを言ってると思った。

 

理想は声に出して言うことが大切
すると世界は変わっていくのだから

「暴力がなくなったら世界が平和になる」
「世界を私たちの手で変える」
「なりたい自分になる」
秋好が大真面目で言うことは壮大な理想であるわけだけど、そういうこと、恥ずかしがらないで大きな声で言うのって大事なことだよね。

地球温暖化について声を挙げたグレタ。
彼女は14歳の時に学校の前で座り込んで抗議した。たった一人で。
彼女の声は全世界に広がった。
たとえ、実現不可能に思えることでも、自分一人でも、始める、行動を起こすこと、理想を口にすることはこの世界で大切なことなのだ。
私は秋好という女の子を羨望の思いで見つめた。
こういう人は社会に必要なのである。
たとえ皆に引かれようとも。
こういう人こそ世界を変えていくのだ。

青くて痛くて脆い

 

人間を構成する原子核は常に動いている
人間は行動することが使命なのだ!

人間を構成する原子核は常に動いている。
だから、私たちは行動することが基本なのです。
と書かれた足立育郎さんの本を以前に読んだ。
それは全篇驚きの内容だったが、行動することの根元的な理由がわかったこの一文は今も私の中で大切な指針のひとつだ。

というわけで、本作は杉咲花の魅力全開、吉沢亮のダサさ全開(彼の新境地でしょ)、これから注目の若手俳優の好演(森七菜、松本穂香、茅島みずき)と、見所多しであり、また、秋好寿乃の行動は正しいのだ、とトリニティ読者には納得と共感を求めたい一作である。

監督 狩野俊輔
脚本 杉原憲明
原作 住野よる
出演 吉沢亮 杉咲花 岡山天音 松本穂香 清水尋也 茅島みずき
光石研 柄本佑

※119分
©2020映画「青くて痛くて脆い」製作委員会
※8月28日(金)~全国東宝系劇場にてロードショー

 

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