一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.215 「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」

告発の時

性的虐待は時間が経つほど罪を深める
実話を物語で再現したリアルな佳作!!

幼少期、また10代という若い年代の性被害というのは、何十年もたってから精神面に支障をきたすということを最近知った。

しかし、時効は10年(日本)と短いものである(フランスは成人に達してから30年と2018年に延長されたそう)。
自分自身を愛することが出来ない。
自尊心が低い。
情緒不安定になる。
感情を押さえることが出来ない、突然自暴自棄になるなど、トラウマは永く被害者を苦しめる。

子どもの頃は、それが何かも分からない。
ただ、黙って受け入れてしまう。
それが、信頼する先生や教会の神父だったりしたらなおさらだ。
受け入れてしまった自分が汚れてしまったような、汚らわしい生き物になったような気がして誰にも言うことができない。
怖ろしい記憶は封印されたまま大人になるが、何かのきっかけで噴出し時限爆弾のように被害者を内面から破壊する。

本作はフランスでの神父による長年の児童への性的虐待事件という実際の事件を元にして、劇映画として作られたものだ。
この事件は今も係争中という。
聖職者による性的虐待は数年前に「スポットライト 世紀のスクープ」という実話を元にしたセンセーショナルな秀作が記憶に新しい。
「スポットライト」は新聞記者たちの取材や告発を描いていたが、本作は被害者たちの告発の過程が主になっており、また被害者たちの私生活も詳しく語られ、「スポットライト」のように派手ではない。
しかし、フランス映画だなあ、と思わせるリアルな描写も随所にあり、その地味さがより真実に近く、新鮮でもある一作だ。

告発の時

 

被害者たちの壊された日常やメンタル
フランス映画のテイストで丁寧に

40歳のアレクサンドルは5人の子どもと妻とリヨンで平穏に暮らしていた。
ある日、昔の知り合いからかけられた一言で幼少期に神父から受けた性的虐待をはっきりと思い出す。
そして神父がまだ今も現役だということを知り、告発を決意する。
しかし、枢機卿は話を聞いても神父を裁こうとはしない。
業を煮やしたアレクサンドルは警察に告訴状を出す。
すると、当時の被害者が次々声を上げ……。

アレクサンドルから視点は、同じく被害者のフランソワ、エマニュエルと移っていく。
フランソワは兄との確執を、エマニュエルは上手くいかない恋人との関係を丁寧に描写されていて、「この描写は必要なのか……?」と思わないでもなかったのだが、それは被害者の現状を描くという意味では必要なのだろう。
しかし、ハリウッド映画や日本映画ではこういうの描かないだろうなあ、と思った。
フランス映画ってやっぱり独特で、昔からよく分からないセリフとかシーンがある。
でも、それがあるから、フランス映画なのだ。
しかも、本作はフランスの気鋭監督、フランソワ・オゾン監督作。

告発の時

 

それぞれの家族の決断や行動に驚く
誰かの支えがなくては耐えられない

本作で印象的なのは、家族の絶大な協力だ。
家族で闘う。
なんか、家族映画みたいでもあるのだ。
被害者たちはこんな強力な家族がいて幸せだ。
ふと思う。日本はどうだろう? こんな絶大な信頼と協力は家族間にあるのか?
なんだかなあ~とわが国を憂う……。

さて、今も時限爆弾を抱えたまま生きている人は少なくないだろう。
彼らが安息するためには、告発も必要なことのひとつだ。
勇気を出して声を上げる。
それが普通にできる社会を作りたい(私なりに)、と思う。
しかし、フランスの社会は成熟してるなあ、と本作で実感した。
怖いくらいである。

監督・脚本 フランソワ・オゾン
出演 メルヴィル・プポー ドゥニ・メノーシェ スワン・アルロー
エリック・カラヴァカ フランソワ・マルトゥレ ベルナール・ヴェルレー

※137分
© 2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA–PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE
※7月17日(金)よりテアトル梅田、アップリンク京都、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー

 

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