一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.214 「その手に触れるまで」

その手に触れるまで

少年の過激思想の暴走は止められるか?
ナイフで斬りつけられる衝撃作!

農園通いの生活にも慣れ、快適になってきた今日この頃。
やっと延期されていた新作の公開が少しずつ決まり、学校も開講される見込みとなり、嬉しい反面なにやら複雑。

でも、新作レビューを書けることは嬉しい! 今回は超お薦め作です。

ダルデンヌ兄弟の作品にはいつも驚かされる。
私が新作を待ち望んでいる数少ない監督の1人だ。
そして、彼らの作品ははずれがない。
いつも、私は「うっひゃあ~」と頭を抱えたり、打ちのめされたり、分けがわからなくなったり、感じたことのない感情を味わわされる。
でも、今回思ったのは彼らの作品は毎回「怖い」なってこと。
たとえば、普通にしゃべってたと思ったらいきなり懐からナイフを出されるような感じ。
油断できない。
それでそのナイフで斬りつけられて斬られたところがヒリヒリしたまま映画は終わるって感じ。
うわっ、どうしてくれるよ? って感じ。
そのヒリヒリは長く印象に残るの。
「痛み」として。

その手に触れるまで

 

全編緊張を強いるサスペンス
ラストの希望の光のキラメキ

本作も13歳の普通の少年アメッドの姿を写すなにげない日常のシーンからスイっと始まる。
彼は自分に親切にしてくれる女性教師を疎ましく思っている。
最近傾倒しているイスラム教の指導者にそそのかされ、その教師を抹殺しようとする。
ナイフ一本で。
「ええっ」でしょ?
教師をこの世から排除することこそ正義、と信じて疑わないアメッド。
決意はどこまでも固く、彼を転向させることなど不可能だと思わされる。
思春期の妄信の恐ろしさよ。
ほぼ無表情で伏し目がちで見た目オタクにしか見えないアメッド。
彼の頑なさは人間じゃないみたい。
いったいどうしたら彼の心に触れることができるのか?
観てるこちらはヤキモキする。
そして、こりゃダメだ、と絶望的になった時、またしても懐からナイフ。
「ええっ」なのだ。
そのナイフはキラリと希望の光を宿す。
ダルデンヌ兄弟の映画はほんと最後まで一瞬たりとも気が抜けない。
緊張を強いる。
だからいつも短いのか(本作も84分)。

その手に触れるまで

 

コロナ禍の裏を読み解く知性
「愛」と「寛容」を忘れるな!

世界は今アメッド状態か。
コロナで人々は触れ合うことを許されず、心は頑ななまま柔らかさや優しさを失くしつつある。
今は「愛」や「寛容」こそ必要なのに。
それを排除しようとする「裏の思惑」が感じられる今回のコロナ騒動。
心して裏を読み、確かな情報をキャッチできる知性が必要な時だ。
そして、皆で助け合い「愛」で頑なな心を溶かしていきたい。

ラスト、アメッドの魂の救済を信じて私はしばし目を閉じた。
痛みは今も残り続ける。

 

監督・脚本 ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演 イディル・ベン・アディ オリヴィエ・ボノー ミリエム・アケディウ
ヴィクトリア・ブルック クレール・ボドソン オスマン・ムーメン

※84分
© Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF

6/12(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!
※6/19/(金)から大阪・テアトル梅田他にてロードショー

 

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