一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.213 「精神0」

精神

「夫婦」の物語であり「贖罪」の物語
なにがあっても大丈夫と思える

久々の更新です。
緊急事態宣言が出されてからあれよあれよと言う間にコロナ禍の影響が物凄く、新作映画も軒並み公開延期、試写も全中止、映画館も閉館、教えている学校も開講延期といきなり暇になってしまいました。

しかし、やることはいろいろあれど何かやる気が起きなくて。
で、とりあえず。
借りている農園に毎日通い畑仕事をしてそこの人たちとしゃべって……に精神的に救われている日々です。

今年は経済、政治、教育など世の中の仕組みがひっくり返り、前代未聞のことが起きる、と言われていたので「これかあ~」と思ったものの、しばしついていけてない自分。
でもでも、このコロナ禍が過ぎてからは「新しい世の中」が来るんだと信じて自分に言い聞かせている。
犠牲はしかたないものの、気持ちは明るいのである。
皆さんも、波動を下げることなく上げて、梅干や味噌汁の発酵食品を食べて笑って泣いて免疫力をアップさせて、あっけらかんと生きていくことが肝要です。
淘汰されないように常に魂を綺麗にしてね。

さて、映画館が閉館の今、本作は仮設の映画館での鑑賞が可能です。
詳しくは文末を参照してください。

「台本は書かない」「被写体との打ち合わせは行わない」「ナレーション、テロップ、音楽を原則使わない」等々の十戒を決めた「観察映画」なる手法でドキュメンタリーを撮り続けている想田和弘監督。
デンマークのラース・フォン・トリアー監督の作った映像集団ドグマみたいな縛りを作っての製作は、縛りゆえに素晴らしい作品が出来ることが少なくない。
本作もまったく行き当たりばったりに撮っている作品だけど、他人の生活の面白さで目が離せないのだ。
そして、見終わって「人間」て愛おしい、と強く思う。
そして、なんか「大丈夫だな」と思うのだ。

 

患者に慕われた引退する老精神科医
話をひたすら聞く慈愛溢れた診察

本作は2008年に「精神」という岡山の精神科診療所を題材に撮った作品の10年後、その診療所の山本昌知医師が82歳で引退するということで、彼に密着した作品となっている。
だから、「精神」を観ていなくても全然大丈夫(私も観ていません)。

山本医師の引退で患者たちが「これからどうしたらいい?」と相談に来る。
彼はうんうんと患者の話を聞いて「大丈夫だから」と引き継ぎを伝え、お金を貸してくれという患者には財布から要求された金額より少ない千円札を出す。
うんうんと話を聞くだけの診察はカウンセリングそのもので、この積み重ねと彼の慈愛で患者たちの信頼を得てきたのだろうと思わされる。
また、患者の訴えの端々に今のシステム化された精神科の実情も分かってくる。
概して患者たちは静かで優しげで繊細で、普通の人にしか見えない。
私も精神疾患のある方に講義をしたことがあるのだが、普通のクラスより静かで、反応が薄く表情があまりないという特徴はあったけど(たぶん薬のせい)、普通で優しい人がほとんどだった。
ここでも既成の病院の精神科診療への非難は凄かったが。

精神

 

日々波動を上げる努力が生きるってこと
他人と自分は深層では繋がっている

精神病の99パーセントは憑依によるものだと霊能者は言う。
憑依されるのは自分自身の波動が低くなっているわけで、邪悪なものと共鳴するから。
だから、常に波動を上げておかなくてはならない。これが毎日体調も違うし嫌なことも辛いこともあるしでなかなか難しい。
でも、このことは覚えておいたほうがいい。
日々波動を上げる努力をするということが生きていくということだと。

山本医師の奥さんは認知症だ。
若い頃は頭脳明晰で美しく行動的で夫の仕事を助け支える様子が挿入される。
しかし、今は夫に手を引かれ、何もできずただ申し訳なさそうに静かに笑っている。
山本医師は彼女に代わって全てのことをやっている。

たとえば自宅で監督にお茶を出そうとするのだが、それも皿や湯飲みがどこにあるのか分からず探している様子をずっとカメラは追う。
キッチンは物で散らかり放題。
寿司をとろうと寿司を出前でとってその用意も彼が全てする。
これらのシーンが面白いのだ。

モタモタと腹の出た老人が不器用に茶碗をキッチンペーパーで拭き吸い物の素を入れて湯を注ぐ。
ずっと観ていられる。全然退屈しない。
他人の生活や行動は興味津々だ。
私は他人の生活に物凄く興味がある。
それは、他人は私自身だからだろう。
私たちは深い所で繋がっている。と改めて思う。
山本医師も奥さんも、私自身である。

精神

 

野良猫も私たちも傷つきながらも生きている
今、どう生きるべきか? と考える。

監督は、本作は期せずして夫婦の映画であり「純愛」についての映画になったとコメントしているが、私は「純愛」なんて綺麗なものではなく、これは妻が夫が受けた邪気を身代わりになって受け、それを夫が贖う映画だと思う。
夫が患者から受けた邪気を妻が身代わりになり病を得て浄化。
それを夫が償っているのだ。
しかし、こんな夫婦は世間にごろごろいる。
本作は「精神0」というタイトルより「夫婦0」の方がいいか。
また「夫の贖罪」でもいいかも。

劇中に出てくる痩せた野良猫がふてぶてしくて哀れだ。
短い尻尾は喧嘩か誰かに切られたのか。
野良も逞しく生きている。
私たちも傷つきながらもなんとか生きている。
でも、たぶん、どうなろうと大丈夫なのだと思う。
今の時勢。
(再び言うが)乗り切れば必ず今より良い新しい世界になる。
と私は信じている。

そのために自分はどう生きるべきか? そんなことをこのレビューを書きながら思った。

監督・製作・撮影・編集 想田和弘
出演 山本昌知 山本芳子

※128分
Ⓒ2020 Laboratory X, Inc
※5月2日(土)より〔仮設の映画館〕にて公開、ほか全国順次公開

❖仮設の映画館 ロゴ・各劇場イメージ画像
▶ダウンロード URL:http://www.tongpoo-films.jp/temporarycinema.zip
▶URL: www.temporary-cinema.jp/seishin0

 

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