一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.211 「スキャンダル」

全米大手放送局での実話スキャンダル
でも、これは一端なんだと心して思え！

数日前、天下茶屋駅の改札で切符がなかなか自動改札機を通らずまごまごしていると、向こう側で同じ改札機で出ようと待っていたオヤジにすれ違いざま「ババア」と言われた。

私は白髪を染めてないけれどババアの年ではない(若者でもないが)。
また、その時ババアの服装でもなかった。
オヤジは「はよ、せんか！　待たせやがって！」という恨みで罵詈を放ったのだろう。
しかし、私は痛く傷ついた。
そして、男性から女性に言われる「ババア」という言葉は女性の尊厳を深く傷つけるもので、それは女性の生き方や立ち居地を決定づける底辺にあるのではないかと考えた。
要するに、「女は若くないと需要がないんだよ、全部ババアだよ」という男性の考えである。
そして、男たちは若くない女たちが「ババア」と呼ばれることを一層嫌うことを心得ている。
セクシャル・ハラスメント被害もこの考えがあるから起こるのでは？

で、本作である。
2016年に、全米最大のニュース放送局FOXニュースで業界を牛耳るCEOが現役キャスターにセクハラ被害で訴えられた。
これ、実話。
しかも、16年て最近の話。
本作が企画された時は今のセクハラ告発が次々されることなど考えられもしなかったそうだが、急速に女性たちはこの数年で声を上げ始めた。

絶対的な男の権力者に立ち向かう3人の女
彼女たちの取った行動に共感！するか？

本作は3人の女性それぞれの生き方と考え方を描く。
まず、FOXニュースのトップに君臨するキャスターのメーガン。
彼女はCEOであるロジャーからセクハラを受けたことがあるが、そのことは内緒にしている。
2人目はベテラン・キャスターのグレッチェン。
彼女は昼の番組を降板させられ、挙句クビになる。
それはロジャーから迫られた性的関係を拒否したからだ。
彼女はかねてから準備していたロジャー告発を実行。
業界のみならず、世界に激震が走る。
そして、今まさにロジャーの餌食になろうとする若い野心に溢れた新人キャスターのケイラ。
グレッチェンの告発にメーガンは、ケイラは？
それぞれが出した答えは……。

FOXニュースって会社のCEO、ロジャーの方針に驚く。
キャスターの服は原色のボディコン、超ミニ。
キャスターは矯正下着で胸を強調、足を見せて放送中に何度も組み替えること、パンツはご法度。
髪の色もブロンド率高し。
ロジャーの会社の部屋には何人もの若い野心家の娘が選ばれて送り込まれる。
秘書も手引きして知らんふり。
ロジャーは平気でキャスターの化粧や容姿を人前で罵倒。
それで何が悪い？　と反省の色まったくなし。
徹底したゲスな「男の権力者」である。

地球のシステムが変わる気運が今キテる
何もかも早く変革が、良いも悪いも

しかし、それを受け入れて上にのし上がる者も当然いるのだ。
今まではそういうことは泣き寝入りや隠されてきた。
しかし、女性や被害者たちは声を上げ始めた。
世界が変わろうとしている。
世の中のことを変えるには長い長い時間がかかると言われる。
しかし、地球が変わる気運が今来ているので何もかも早くなっている。
もっと声がこれからも上がっていくことだろう。
それは、素晴らしいことだ。
だけど、変わるには痛みも伴う。
それを引き受けても変わることが望まれている。
私も、「ババア」と言われても「ババアですが、何か？」と思えて言えるようにしたい。
各自が強くなることだ。
そして、自分なりの正解を探すこと。

本作はゲイの問題もさりげなく取り上げられ、弱者への視線が細部に貫かれている。
主演のシャーリーズ・セロンが製作に入っている威力だろう。
最初、彼女が出てきた時「この女優だれ？」としばらく誰か分からなくて、やっと「シャーリーズ・セロンか！　えっ整形した？　顔変わった？」と驚いたのだが、なんと、カズ・ヒロ（辻一弘）の特殊メイク（先日のアカデミー賞で見事受賞！）のため。
実際のメーガン・ケリーそっくりにするための演出なのだ。
別にそっくりにする必要ないと思うんだけど。
最近本人に似せる傾向が止まらない。

さてさて、私は個人的にはケイラの取った行動に拍手だ。
でも闘いはこれから、なんですよね。

監督　ジェイ・ローチ
脚本　チャールズ・ランドルフ
出演　シャーリーズ・セロン　ニコール・キッドマン　マーゴット・ロビー
ジョン・リスゴー　ケイト・マッキノン　コニー・ブリットン　マルコム・マクダウェル
アリソン・ジャネイ

※2020年２月21日（金）、TOHOシネマズ梅田ほか全国ロードショー

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