全編ワンカットに見える長回し圧巻映像
リアル戦場の愚かしさに嘆いたことは?
先日発表されたアカデミー賞で私は本作が作品賞を獲ると思っていたのだけど、結果は「パラサイト」という大穴が主要4部門受賞となった。
今年は今までになかったことが起こる年、と言われていてすでにいろいろ起こっているんだけど、英語以外の言語の作品がアカデミー賞を獲ったのも初めてのことだ。
大変革の波で淘汰されるもの、膿が出るもの、変わっていくこともこれから大挙してくることだろう。
心して、自分軸を固めて生きていくことが試される年となりそうだ。
しかし、今年のアカデミー賞の作品賞ノミネートは秀作揃いだ。
本作もしかり。
公開前から全編ワンカット撮影! と喧伝されていて、どうやってワンカットで撮るんだろう? とはなはだ疑問だったけど、観てみるとワンカットに見える、撮影。ということでした。
しかし、ワンカットに見えるように撮影することがどれだけ大変か、それはプレスを読んであきれ驚愕したほどだ。よくこんな無謀なことを……
素晴らしい!! じゃんか、と(アカデミー賞では撮影賞、録音賞、視覚効果賞の3部門受賞。これは獲らなきゃおかしいよ)。
技術的なことはパンフレット購入で納得していただきたい。
が、それを除くと物語は実にシンプルだ。
ラストも意外にあっさりしていて、んっ? と少々思ってしまったのは確か。
しかし、観ている間中ずっと通奏低音のように底に湧く感情があって、それは、私としては新しい感情だった。
これ、作ったんですよね??
お金をかけた長い塹壕やVFX技術に驚愕!
まずはシンプルな内容について書く。
第一次世界大戦下のフランスで、イギリス軍の兵士ふたりが1600人もの兵士の命を救う伝令を持って塹壕やドイツ軍占領の町を抜け任務を果たすというもの。
決死の任務は障害が多数用意されている。
カメラはふたりに密着し、彼らが抜けていく長い塹壕は、作ったんだよ!! 凄いなあ、これ作ったんだろうなあーっ お金かかりまくってるなあ、とすごく冷静に塹壕をチェックする私がいた。
ふたりは塹壕を抜け、ドイツ軍が去った廃墟に行き……と前進するのみ。
カメラが密着してるし、究極の長回しなので没頭しそうなのだが、私はチラチラ画面から目を外すこと何度かあり。
ずっと思っていたのは。
まったくもって戦争ってバカバカしい。何やってんだろう。
何やらされてるんだろう? この男どもは。
1600人救うために何人もドイツ兵を殺して主人公は進んでいく(国を、家族を救うために仕方ないのだけど)。
1600人救っても、100万人規模で第一次世界大戦は人が死んでんだわさ(仕方ないんだけど、犠牲になるのはいつも市井の庶民だよね)。
なんで、戦争なんか始めてんのよ。愚かしいことこの上ない。
女は、戦争始めないよ。
今までは戦争映画はそれなりに感動していた(作品にもよるが)はずだが、
ここに来て「もういいよ」みたいな感情が物凄くクールに広がってしまい私自身も驚いた。
それだけ、本作はリアルだということか。
今の私だから思ったこと
男性の時代から女性的精神の時代へ
ラストもありがちで終わる。20世紀は「戦争の時代」だと言われる。
男性性の時代であった。
しかし、21世紀になり、これからは女性性の時代である。
もう戦争はいい。いらない。起こさない。
いかに、そう女性性へと変換できるかがこれからの課題だろう。
素晴らしい技術で魅せる本作は、戦争の正体が浮き彫りになる点が長所だろう。
しかし、また技術に力が入りすぎて感情面が薄くなってしまっていたのは否めない。
私としては、新しい感情を確認できて大いに自身の内面の発見であり、精神の成長を感じた機会であった。
そういう観方ができる映画は優れた映画である。
監督・脚本 サム・メンデス
脚本 クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
撮影 ロジャー・ディーキンス
出演 ジョージ・マッケイ ディーン=チャールズ・チャップマン マーク・ストロング
アンドリュー・スコット リチャード・マッデン コリン・ファース ベネディクト・カンバーバッチ
※119分
© 2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved
※2020年2月14日(金)TOHOシネマズ梅田他全国ロードショー
配給:東宝東和
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