一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.209 「プリズン・サークル」

プリズンサークル

刑務所での斬新更正プログラム
言葉によって浄化され人間になっていく

日本の刑務所に初めてカメラが入った。

取材許可まで6年。撮影2年。
女性監督が撮ったドキュメンタリーは凄いことを映し出している。
日本の闇、人間の闇、そしていかに生きていけばいいのかを教えられる稀有な一作である。

島根あさひ社会復帰促進センターという刑務所らしからぬ名前の刑務所は2008年に開設された官民共同型の男子刑務所。
警備や清掃などには民間が入り自動化が進み、食事運搬などロボットが担う。
カメラで監視された受刑者は所内で独歩が許されている。

そしてこの刑務所の一番の特徴は「TC(Therapeutic Community=回復共同体)という教育プログラムを受けることが出来るということだ。
これは円座での対話によって犯罪の原因を探り、問題の対処法を見つけることを目指す英国発のプログラムで、日本で唯一島根あさひがこれを取り入れている。
TC出身者の再入所率は他のプログラムと比べて半分以下という調査結果もあり、注目されているそうだ。

プリズンサークル

 

正しい心で清明に生きていくことが
いかに大切か、人々は知らない

映画では4人の若者を取り上げ、彼らの幼少期からの生活、どのような経過で犯罪に走ったか、犯罪を認識し、どのように償えばいいのか、被害者はどう思っていると考えるか、などを数人でサークル(輪)になって対話する姿を追う。
そこに出所者たちと民間スタッフたちの交流の様子や、アニメーションを挿入し2時間16分飽きないように構成されている。

正直途中でだれる部分はある。
しかし大変興味深い記録で、この4人が皆幼少期に虐待やいじめを受けていることに今更ながら驚いた。
それも深刻な凄惨なものだ。

幼少期に愛されることを学ばないと自分を大切にする心は育たない。
また、彼らは自分の気持ちを言葉にするということをしてきていない。
いや、出来ない。
また、彼らの話を聞いてくれる人は誰も彼らの側にいなかった。
誰も他人に無関心なのだ。

そして、一番私が感じ入ったのは、彼らが犯罪を犯した時のことをよく覚えていないと言うことだ。
心が荒んでくると、悪いものが憑いて悪さをさせると言われるが、彼らはまさにそれだろう。
いかに正しく心を清明にして生きていくことがどれだけ大切か思い知らされる。
悪い心には悪魔が憑くのだ。彼らは言葉によって悪魔を祓っていく。
言葉にはそれだけのパワーがあるのだ。
言霊というパワーを使い円の中で他人の言霊の力も借りて更正していく少年たちが次第にキラキラ輝いていく。浄化の時間である。
彼らは言葉を獲得し、人間になっていくのである。

プリズンサークル

 

犯罪者に手差し伸べ愛を与える
愛は血まみれになる覚悟がいる

拓也という少年が書いた、ある少年を主人公にした物語が胸を打つ。
繊細な心を持つ拓也のイマジネーションと創作力に驚きつつ、同時にこの傷つきやすさが彼を犯罪者にしたのかと思うと哀れでもあった。
彼はラスト、笑顔で出所していく。
彼はもうここへは戻ってこないだろう。

「犯罪者が悪いのではなく、犯罪を起こさせる社会が悪いのだ。
私たちが彼らに手を差し伸べるべきなのだ」。

これは、ノルウェーの人々の基本の考え方らしいが、そうなのだろう。
そうなのだろう、と思う。
愛で心を更正させる、それが基本なのだ。
しかし、愛は覚悟がいるのである。
このTCプログラムが日本はもちろん、世界に広く普及することを夢見る。
まずは、孤独な隣人に声をかけることから始めようか。
そして、清明な心で生きていくことを心がけよう。
また、私はこのプログラムの講師の仕事をしたいと思った。
沢山の人にこの映画を観て欲しい。

プリズンサークル

 

監督・編集・撮影 坂上香
撮影 南幸男
録音 森英司
アニメーション監督 若見ありさ

※136分
©2019 Kaori Sakagami
※2月8日(土)から大阪・第七藝術劇場にてロードショー
※東京はシアター・イメージフォーラム他にて公開中

 

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