ズシリと心に残る彼女たちの選択
心のままに生きる手立ては? を示す秀作!
全編息詰まる展開。
息を止めて観ていたような気がするほどだ。
サスペンスでもスリラーでもない。
でも、この怖ろしいようなスリル満点の展開は静かに荒れ狂い私は心をかき乱された。
観終わって、ズシンと胸に残った。
余韻。それはなぜか日がたっても甘いままなのだ。
始まりが素晴らしく映画的。
ユダヤ教の老齢のラビが儀式の途中で倒れる(そこでされる人間と獣、欲望についての説法が本作のテーマでもあり、物凄く印象に残る)。
ニューヨークで写真家として活躍するロニートにスタッフが声をかける。
ロニートは振り向く。
次のシーンでロニートは酒場で酒を煽り、苦しそうに行きずりの男とセックスする。
倒れたラビは彼女の父親で、彼女と父親の間には何かあるのだと分かる。
ほぼセリフなしで彼女がイギリスの実家に帰るまでを一気呵成に魅せる。
無駄のない演出と展開に、早くロニートの事情を知りたくてウズウズする。
ロニートが実家に帰ると親戚連中は彼女に冷たい。そして迎えてくれた幼馴染のドヴィッドは次期ラビ候補とされていて、ロニートの帰郷に戸惑っている様子。
彼が結婚したと言って紹介してくれた相手は同じく幼馴染のエスティで、ロニートはショックを受ける。
かつてロニートはエスティと惹かれあっていたのだが、父によって引き裂かれた過去があったのだ。
ロニートは動揺するが、それはエスティもドヴィッドも同様だった……。
女同士のラブシーンをちゃんと
描くことはゲイの理解のために必要
最初、レズビアンの映画かあと思っていたのだが、そのものを描くのではなく、原題のDisobedience(ディスオビディエンス)=従順でない、反抗的な。が示す通り自由を求め、囚われから自分の心のままに行動しようとしてもがく人々のドラマである。
厳格なユダヤ教徒のラビの娘という立場から逃げ出したロニート。
一方エスティはロニートに捨てられこのコミュニティで生き抜くために勧められるままにドヴィッドと結婚する。
でも、心はロニートを忘れられない。
ドヴィッドはエスティを愛しているが、彼女を愛するが故に彼女の選択を尊重する。
三人の苦悩と葛藤が半端なく、るつぼだ。
一触即発のロニートとエスティの距離がドキドキだ。
そして一気に燃え上がる。
こんなリアルな女同士のセックスシーンを観たのは初めて。
観終わって隣で観ていたゲイのKくんに問うと「ゲイのセックスシーンがキチンと描かれている映画がないから、そこは製作者が理解してもらうためにちゃんと描こうとしたんだろう」と言っていた。
なるほど~確かに。いや、そういうわけかあ。
過去に決裂して新しい道を選ぶ困難
しかし、そこにしか光はない
エスティの選択がメインかと思えば、ドヴィッドの選択が素晴らしいもので、ラストは意外な展開となり、ちょっと驚き、少し残念なような気もした。
しかし、皆勇気を出して過去に決裂し、新しい道を歩む。
心のままに選んだのだからそれでいいのだ。それしかないのだ。
ヘヴィ級の重い物語なのだが、今現在も厳格なコミュニティや村から逃げ出すことが出来ない人々は少なくないだろう。
そんな彼たち、彼女たちが一歩でも明るい方へ進んでいけたら、と願う。
ほんとうになんとも心に残る作品であった。
監督・脚本 セバスティアン・レリオ
脚本 レベッカ・レンキェヴィチ
原作 ナオミ・オルダーマン
出演 レイチェル・ワイズ レイチェル・マクアダムス アレッサンドロ・ニヴォラ
配給:ファントム・フィルム
※114分
©2018 Channel Four Television Corporation and Candlelight Productions, LLC. All Rights Reserved.
※2月7日(金)から全国ロードショー
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