一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.203 「ティーンスピリット」

ティーンスピリット

歌手を夢見る少女の魂の輝きに
自身の魂の望みと喜びを知る佳作!!

片田舎に住む家庭的にも金銭的にも恵まれない十代の少女が、歌手を目指しオーディションを受けるお話。

上手く行くかに見えて彼女の前には細かく障害が設定されている。
シンデレラになるのだろう、と思いつつこちらは少女の前に提示される巧妙な選択肢にハラハラさせられる。
少女は17歳だ。
17歳でこの決断は出来ないのでは?
そのダメダメな行動はしかたないよな、と自分に言い聞かせながら少女の選択をじっと見守った。

 

私の魂は老いてはいない
誰の魂も老いることなどないのだ

ティーンスピリット

少女、ヴァイオレットを演じるエル・ファニングはダンスや歌など全て特訓を受け自身でこなしている。
クライマックスでの彼女の魂がこもった歌声とパフォーマンスに心を持っていかれ、ハッとさせられた。
こみ上げるものがあって、私はポロポロと泣いた。
それは、今私がヴァイオレットなら、と思ったからだ。
このような魂の燃焼を私は出来る、と思ったのだ。
しかし、私はすでに年老いている。
しかし、私の中にヴァイオレットはいるのだ。瞬時に十代に返れる。
しかし、それは十代の時には解らない。年老いてから解るのだ。
でも、私の魂は年老いてない、と解ると自然と涙が流れた。
私の魂は今も十代なのだ。
魂は年をとることはない。
そう確信した。泣いたのは私の魂だろう。

そう感じさせてくれたエル・ファニングのパフォーマンスは素晴らしかった。
ちょっと甘い展開も、音楽で押していく力技の演出もすべてチャラになるくらい素晴らしいものだった。
このシーンだけでこの映画は観る価値がある。

 

自己表現の前に、まず自分の心の声に
耳を傾ける。それが全ての始まり

ティーンスピリット

監督は名匠アンソニー・ミンゲラの息子のマックス・ミンゲラ。
本作が初監督作だという。
しかも、映画の舞台のワイト島は彼の父親が幼少期を過ごした島。
父親の姿や想いがマックスの記憶に残っていてその特別な想いが本作には溢れている。
だから、単なるシンデレラ・ストーリーではない「何か」が宿っているのだ。
その何かとは「魂」なのだけど。
クリエイターはまず世に出る作品は自分の出自に関するもので、という法則があるけれど、まさに本作はその法則にかなっている。

プレスの監督の言葉で印象的なものがあった。
「この映画は私たちの芸術への野心 — つまり自己表現への渇望 — と人に耳を傾けてもらう不可能さの間の隔たりを描いている」。
人に耳を傾けてもらう前に、自分の心の声に耳を傾けなければならない。
全てはそこから始まるのだ。
ヴァイオレットも迷いながら自分の声を見つける。
この監督は、今後注目株である。

本作でヴァイオレットの成功への不安と苦悩の旅を私も一緒に経験した。
彼女はティーンで思春期だけど、私たちの魂はみな思春期の感情を忘れてはいけない。
そしてそれを元に成長し、魂を磨いていくのだ。
思わぬ拾い物の、魂の逡巡と考察をさせられた作品だった。

監督・脚本 マックス・ミンゲラ
出演 エル・ファニング ズラッコ・ブリッチ レベッカ・ホール
アグニエシュカ・グロホウスカ アーチー・マデクウェ クララ・ルガアード
※94分
Ⓒ2018 VIOLET DREAMS LIMITED.
※2020年1月10日(金)より、シネ・リーブル梅田他 全国公開

 

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