一宮千桃のセンスアップ☆シネマレビューPART.197 「マチネの終わりに」

マチネの終わりに

50歳のふたりが演じる、潤いをくれる
大人の秀作ラブ・ストーリー!

久々のしっとりした、大人のラブ・ストーリーを観たな、という感想。
ラストは胸が締め付けられて、泣いてしまった。

ラブ・ストーリーのラストで泣いてしまうって、それこそ、ラブ・ストーリーを観る醍醐味だよね。
そういう意味で、文句なしの秀作「ラブ・ストーリー」だ。
こういう映画、観るだけで潤う。
カサカサしてきてるな、という心も身体も潤う気がする。
最近、厳しいテーマや状況の映画が多い中、「泉」のような映画だった。

有名なギタリストの蒔野はコンサートの後で、小峰洋子を紹介される。
パリの通信社で働く洋子は、自信を失った蒔野のコンサートの出来を褒め、蒔野の関心を惹く。
パリに帰った洋子は同僚をテロで亡くし、傷心の時にパリを訪れた蒔野と再会。
三度目に会った時にふたりは互いの気持ちを確認した。
洋子には婚約者がいたが、洋子は蒔野の胸に飛びこむことを選んだ。
しかし……。

マチネの終わりに

 

蒔野と洋子のすれ違いにヤキモキハラハラ
そして感涙のラストに向けてワクワク!

ラブ・ストーリーはふたりの間に邪魔や障害を設けて、とにかくうまく行かせないことが肝要。
このふたりも思わぬ邪魔が入って、すれ違いにすれ違い結ばれないのだ。
あっ、けっこう簡単にお互い諦めちゃうのね? という気も少々したが。
また、この邪魔も愛ゆえの邪魔であり、一概に非難もできないのだ。
「哀」も感じさせる邪魔で、辛いんである。
ああーっこのふたりは結ばれないのか……どうなるのか? とラストは分かっちゃいるけど、ハラハラ、ヤキモキ。
またどう再会させるのか、ワクワクの期待もあり、俄然ラストに向けて気持ちは高まる。
そして、ラスト。
カタルシス、感じたぁー。
ほっとしました。
良かったあー。

 

細やかな感情を丁寧に描く脚本、演出
洋子のとった行動はその時は精一杯の正解

観ながら、脚本上手いなあー、誰? 監督は? と思っていたらなんと「昼顔」のコンビ、井上由美子と西谷弘。
そして音楽が私の大好きな菅野祐悟ときた。
面白くないわけなかったのだ。
人物と心情描写のリアルさ、噛み応えありの展開はもはや職人技。
中堅ギタリストの苦悩、中年女の選択と寂しさ、ギタリストの才能を愛するマネージャーの苦悩と逡巡……どれも共感できるものだ。
そういう細やかな感情を持ちながら、私たちは日々生きている、と登場人物を愛することができる。
中でも私が好きなシーンは、ラスト近くに、洋子がひとりアパートで蒔野の新しいCDを聴いて涙ぐむ場面。
自分の選択はこれで良かったのか?
また行動するべきなのか?
洋子は自分と向き合う。
痛みを知ってこその次のステップだ。

マチネの終わりに

 

たくさんの女性に観て欲しい一作
まず女性が幸せになると世界が潤う!

福山雅治も石田ゆり子もともに50歳。
福山は少々顔がふっくらしてきたが、まだ美しい。
アップに耐える男前ぶりである。
また、石田ゆり子がいい。
外見はほぼ衰えなしである。
しかし、内面は50歳の成熟が感じられて役に説得力がある。
そして、チャーミングさも衰えなしだ。
彼女の著書「lili」を以前読んだが、名著。
なるほど、こういう日々を送ると衰えないんだな、と大変参考になった。
彼女が夜寝る前に「今日も一日素晴らしかった。ありがとうございます」と笑顔で感謝して眠る、というのは私も実践している。
ふたりの姿プラス、パリやニューヨークのロケも本作を見ごたえのあるものにしている。

たくさんの女性に観て欲しい作品だ。
まず、女性が潤わなくてはね。

 

監督 西谷弘
原作 平野啓一郎
脚本 井上由美子
出演 福山雅治 石田ゆり子 伊勢谷友介 桜井ユキ 木南晴夏 板谷由夏 古谷一行 風吹ジュン

※124分
©2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク

※11月1日(金)全国東宝系にてロードショー

 

《一宮千桃さんの記事一覧はコチラ》
https://www.el-aura.com/writer/ichimiyasentou/?c=26311