一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.179 「グリーンブック」

ガサツな運転手と知的な黒人ピアニスト
不協和音が珠玉の倍音となって心を打つ!

先日発表されたアカデミー賞で見事作品賞と助演男優賞を受賞した。

監督はコメディ作で有名なピーター・ファレリー(監督賞にはなぜかノミネートされていない)。
助演は一昨年も助演男優賞を獲ったマハーシャラ・アリ(そんな続けて獲るなんて意外! すごいラッキーマンだ)。
主演はデンマーク人のヴィゴ・モーテンセン。
14キロ体重増やしてのイタリア人になりきっての好演(主演男優賞は獲れなかった……なぜ?)。
そして、この話は実話という。
ものすごく素敵な話で、しかも、ユーモアたっぷりで、アカデミー賞にふさわしい作品と思う。
いろんな思いが詰まった作品で、それはノミネートされた全作品そうだと思うけど、本作が作品賞を受賞したのは、今の時代にとって深い意味があるのだろう。
主演男優賞がフレディ・マーキュリーを演じたレミ・マレックというのもびっくりしたが、それも、意味があるのだ。

 

南部での数々の事件がふたりの心を開き結ぶ
変わっていく心を見る醍醐味!

さて、話の舞台は1962年のアメリカ。
まだ人種差別が色濃く残る時代。
ナイトクラブの用心棒を務めるトニーはクラブが改装で閉店の間、黒人ピアニストドクターのツアー運転手として雇われる。
食べることが大好きで口八丁手八丁。
ガサツで喧嘩っ早いイタリア人のトニーは黒人に対して嫌悪感もある白人だ。
しかも、ツアーは差別の激しい南部の町。
なんで、そんなところに? と思いつつも教養人で上品で優雅な物腰のドクと珍道中を繰り広げることになる。
これ、逆の話ならたくさんあるだろう。
それに、黒人のクラシックのピアニストってそういえば今でもあまり聞かないのだが、この時代は特にだろう。
最初、ドクのノリの悪さと知的な態度に毒ずくトニーだが、彼のピアノの演奏を聴いてからは態度が変わる。
それはドクも同じで、トニーの下品で粗野な様子にゲンナリするのだが、危機を救ってくれ、頼りになる存在と認めてからは心を開く。

ふたりの価値観や心情が変わっていく過程を見せられるのは物語の醍醐味である。
しかし、事件は次々起こる……。

 

素晴らしい才能だけでは変わらない
勇気がなくては何も変わらないのだ

グリーンブックとは、南部で黒人が泊まれるホテルが載った冊子のことだ。
黒人は白人と同じホテルには泊まれない。ホテルやレストランやトイレも別。
トニーはこの冊子を見ながらドクの泊まるホテルを探す。

バンドのメンバーがトニーに言う言葉が本作の肝だろう。
「ドクは北部では南部の3倍のギャラをもらえる。でもあえて南部のツアーに出るんだ」
「なぜ?」とトニー。
「才能だけじゃダメなんだ。勇気が必要なんだ」
人々の心を変えさせるには素晴らしいピアノが弾けるだけじゃダメなのだ。
差別が色濃い、自分を殴りつける人々がいる所へ足を運ばなければ何も変わらないのだ。
今、この世の中に必要なのは「勇気」なのだと思う。
これが本作が作品賞を獲った意味だろう。

 

俳優たちの名演にうっとり、そして笑った
ラストは快哉! 素敵すぎるラスト!

マハーシャラ・アリ。
素晴らしく知的でカッコよく美しい。
ヴィゴ、上手すぎて獲れなかったか? ちょっとやりすぎ感もあり?
ふたりが朝食の席でトニーの妻への手紙についてやりとりするくだりは笑った。
さすがファレリー監督。
笑わせるツボを心得ている。

そして、ラスト。にんまり。
良かった! 心温まるラストに胸が熱くなった。

ふたりの友情は生涯続いたそうである。
間違いなく、彼らはソウルメイトだったんだね!

 

 

監督・脚本 ピーター・ファレリー
脚本 ニック・バレロンガ、ブライアン・カーリー
出演 ヴィゴ・モーテンセン マハーシャラ・アリ リンダ・カーデリーニ

※130分

※3月1日㈮~全国ロードショー

 

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