一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.174 「人魚の眠る家」

娘は生きている! 脳死は「死」か?
母親の驚愕の行動に涙涙……の傑作!

離婚間近の夫婦の娘が事故で脳死状態となる。

医者は回復の見込みはないと、臓器提供の道を示唆する。
母親は眠っているだけのように見える娘を自宅で介護する道を選ぶ。
いつか、娘は目を覚ますと信じて。
IT機器会社を経営する夫は、自社の最先端技術を娘の身体に試し、娘は脊髄に送られた信号によって、意識のないまま手足を動かせるようになる。
母親は喜び、娘を着飾って車椅子のまま近所を連れまわす。
夫はそんな妻に異常を感じ、家族の間でも齟齬が生じ、皆から非難された母親のとった行動は驚愕のものだった……!

傑作だと思う。
堤幸彦監督の映画は凄いのがいっぱいあるが「包帯クラブ」「天空の蜂」そして、本作は私にとって三傑作である。
クライマックスは号泣した。
篠原涼子は今年の演技賞、総なめすることだろう。
熱演。
凄みのある母の演技を見せてくれた。
篠原涼子、見直しました。

映画は、冒頭から美しい夢のようなシーンで始まる。
夢の中の家だ。
そして、冒頭シーンをすっかり私は忘れていたのだが、堤監督、うっまぁい!!
円環を描くように素晴らしいラストで映画は終わる。

忘れていたのと、泣き疲れていたのもあって、ラストは仰天!
息を呑んだ。
やられたあーっ。
楽しみにしておいて。

 

スピリチュアル的に見れば
脳死は「死」ではない 生きている

さて、本作には深い問題提起がある。
脳死は人間の死か、それとも、心臓死が本当の死か?
脳死になった家族の死を認め臓器移植の決断を下せるか?
映画では、母親は娘の死を受け入れない。
生きていると世話をする。

植物状態になった息子に、好きだった音楽を毎日聴かせて意識を回復させた母親の話をテレビで見たことがある。
そういうふうに奇跡が起こることもある。
スピリチュアル的に見れば、脳死は死ではいない。
心臓が止まったら、死である。
しかし、奇跡はそう起こらないから皆、脳死は死だ、と思う。
本作の母親も皆に理解されない。
歯がゆい思いで私は観ていた。
そこらあたりを上手く原作の東野圭吾は小説にしている。
ミステリー要素もあり、不気味さも楽しめる。

 

臓器移植すべきか? 登場人物の苦悩と答えに
私たちも苦悩し、答えを出している

そして、臓器移植もスピリチュアル的に見れば良くないようだ。
臓器移植をする時にモルヒネを使うそうで、死んでいるのになぜ麻酔のモルヒネを使うのか?
また、臓器を取り出す時に患者が涙を流したとか、汗をかいたという報告もあるそうだ。
まだ、死んではいないのだ。
それに、臓器移植してもその人の寿命は変わらない。
また、感染症など、いろんなリスクがある。
上手く適応することはむずかしいのではないか。
劇中では、臓器移植を待っている少女のエピソードも挿入されている。
その少女に娘の臓器を提供することができるのでは……と父親は苦悩する。
そこも、見所である。

重いテーマだけど、一級のエンターテインメントに仕上げているところが素晴らしい。
それぞれ、登場人物の皆がどうしたら一番いいのか? と激しく迷いながら自分なりの答えを出して決断していく。
その痛みを伴う決断に泣けた。

私たちも映画を観ながら共に自分なりの答えを出し、映画の彼らと一体になっている。
やはり、傑作だ。

 

 

監督 堤幸彦
脚本 篠﨑絵里子
原作 東野圭吾
出演 篠原涼子 西島秀俊 坂口健太郎 川栄李奈 山口紗弥加 田中哲司 田中泯 松坂慶子

※120分
Ⓒ2018「人魚の眠る家」製作委員会
※11月16日(金)全国公開

 

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