一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.173 「母さんがどんなに僕を嫌いでも」

母親から何をされても愛し続けた
息子の愛憎、そして魂の旅に号泣!

タイトルだけで悲しい。
母さんがどんなに僕を嫌いでも、僕は母さんを愛することを止めない。

と、続くのだろう。
作者の心の叫びそのままのタイトルだ。
漫画家の歌川たいじさんの実話だそうである。

タイジが混ぜご飯を作るシーンから始まる。
母親が作ってくれた混ぜご飯はタイジの幼い頃からの大好物。
タイジは綺麗でしっかりものの母親が大好きだった。
しかし、外面のいい母親は家では常に情緒不安定で、タイジは幼い頃から母親に罵られ、殴られ、凄まじい虐待を受けてきた。
それでもタイジは自分が悪いから、と母親を嫌いになることはなかった。
そんなタイジに優しくしてくれるのはタイジの家の従業員の婆ちゃんだけ。
辛い幼少時の記憶を抱えたままタイジは成長するが、母親とは今は絶縁状態だ。
心を閉ざして仕事をしつつ、ある日劇団のオーディションを受ける。
そこで知り合った友人との出会いで、次第に自分の母親への感情を受け入れだす。
そして、母親と対峙することを決意した時に母親から連絡が入るのだが……。

もう、号泣! 試写室ほぼ全員むせび泣き状態。
中でも斜め前の席のオジサンが号泣していたのが印象深い。
これは泣くよ。
泣くしかないね。
子どもが酷い目にあう、だけじゃなくて、人の優しさに号泣した。

 

「僕はブタじゃない!」タイジの絶叫
かくも人を縛る悪魔の言葉の恐ろしさ

タイジは幼い頃太っていたので、母親に「お前はブタだ」と言われてから、自分のことをブタだと思い込んで、その呪縛から逃れられないでいる。
婆ちゃんが何度「タイちゃんはブタじゃない」と言っても聞く耳を持たない。
その言葉は成人してからもタイジを縛り続ける。
しかし、心優しい友人の導きによって、その呪縛を取るシーン。
「僕はブタじゃない」と号泣しながら何度も言うタイジ。
言葉に出して言うことで、呪縛は思い込みは取り除かれる。
悪魔の言葉はかくも長きにわたり人間の心を支配するのだ。
タイジの絶叫が胸に刺さる。涙。

 

「ダメなとこも含めて人間は完璧」
友人の金言にハッとさせられる

そして、タイジを優しくかつ辛辣に? 癒していく友人の言葉に心が揺れた。
「人間て、ダメなとこも含めて完璧なんじゃないの」これは凄い言葉だ。
それから、「余裕がある方が相手を気遣う。気づいた方が相手を気遣うんでいいんじゃないの」。
それを聞いてタイジは今は自分の方が母親より余裕があるから母親に優しくしようと思いなおす。
母親なんだから、子どもなんだから、じゃなくて。
こんな友人たちに出会ってタイジは幸せものだと思う。
やっぱり、人生は不公平じゃないんだ。
酷いことも良いことも半分半分。
友人たちのあまりの優しさに最初? と思いつつ、安心して彼らを信用しだしている自分に気づく。
タイジを救って! と願っているのだ。

 

人を許すむずかしさ、愛するむずかしさ
愛についていくつも教えてくれる

後半の、母親とタイジの闘いはヒリヒリ痛い。
でも、「チキショー、母さんとの闘いに負けないぞ!」と言うタイジの決意のまま、
「みっともなくていいよ、かあさん」とタイジは母親を許し、受け入れることをやり遂げる。
ラストはまたも号泣! 母親役の吉田羊の頬に初めて涙……!
辛い話だけど、胸のすくようなラストである。
青空が広がっている印象。
自分を酷い目に遭わせた肉親を許す。
前世のカルマを浄化してこそ、
人は次の課題へと進める。
タイジの魂の旅につきあった約2時間。
ヘヴィだったけど、私自身も浄化された気持ちで試写室を後にした。

タイジ役の大賀。
演技上手で好きな役者だが、難しい役をリアルに悲しく優しく巧緻に表現した。
素晴らしい演技だったと思う。
吉田羊。
容赦ない冷血の母親、こちらもハマリ役で好演。
他、脇も素晴らしい。
人に愛されることがどれだけ大切か、また、愛すことのむずかしさ、人間の愛についていくつも教えてくれる作品である。

 

監督 御法川修
脚本 大谷洋介
原作 歌川たいじ
出演 大賀 吉田羊 森崎ウィン 白石隼也 秋月三佳 小山春朋 木野花 斉藤陽一郎
おかやまはじめ

※104分
©2018「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会
配給:REGENTS
※11月16日(金)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ
MOVIX京都、神戸国際松竹 ほか全国ロードショー

 

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