一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.166 「判決、ふたつの希望」

些細な口論が国家規模の騒動に!
人を「許す」「受け入れる」大変さしみじみ……。

よく、日本人は何かあると「謝れ!」「一言謝ってほしかっただけ」と言うなあ(私も含め)と思っていたけど、それは全世界共通なのだと思い直した。

たんさんの映画や、報道でその言葉を聞いてきたからだ。
本作も、一言の謝罪ができなくて揉めに揉めた話。
しかし、謝罪ができない背景には複雑な政治や宗教や民族や恨みやプライドがあって、「許せない!」状態。
これは今全世界で起きている状態だ。
人を許すこと、受け入れることがいかに大変か思い知らされつつ、ハラハラしながら面白く観ることができた秀作レバノン映画である。

レバノンの首都、ベイルートでパレスチナ人の現場監督ヤーセルとキリスト教徒のレバノン人トニーは些細なことで口論になる。
トニーはヤーセルに謝罪を求めるが、その場でヤーセルに侮蔑的な言葉を吐き、ヤーセルは激怒してトニーに大怪我を負わせてしまう。
この揉め事は裁判沙汰になり、その後国家や国民を巻き込んでの騒動に発展していく。

 

ケンカはしかける方に問題あり
こちらのエネルギーを奪いにきている

レバノンという国の背景に詳しくなくても、充分に理解できる。
今、世界での戦争のきっかけは「民族」と「宗教」だと言われるが、本作もヤーセルとトニーの間にはその問題がある。
それらは、劇中で解りやすく説明されている。
要するに、ただのその場のケンカじゃなくて、裏にいろんな思いがあるということなのだ。

それらを置いてスピリチュアル的に観ると、私は最初のトニーの過激な行動に問題ありと思う。
最初にケンカをしかけた方が相手からエネルギーを奪おうとしているので、エネルギーを奪われないためには、相手にしないことが大事なのだ。
しかし、ヤーセルは暴力でやり返してしまう。
こうなったらエネルギーの奪い合いになる。
しかし、ヤーセルはその後終始反省と謝罪を貫き、トニーの暴言についても沈黙を通す。
ヤーセルの方が大人なのだ。
じっと何かに耐えるような表情と知性を感じさせるヤーセル役のカメル・エル=バシャの演技が素晴らしい!
本作でベネチア国際映画祭の最優秀男優賞を受賞。
パレスチナ人俳優として初だそうだ。

 

私たちは皆繋がったひとつの魂なのだ
互いを許す瞬間の崇高さ

一方、トニー役のアデル・カラム。
好戦的な態度はムカムカするが、彼の態度の理由が解ると哀れを禁じえない。
また、これだけ嫌な態度をとることによって、ラストの行動が光るのである。
どんなに国家、政治レベルで揉めていようと、一人間同士では溝を埋めていけるのだ。
それは、日本人と韓国人、中国人の間でもそうだ。

結局、私はあなた。あなたは私。
という、私たちは皆繋がっているひとつの大きな魂なのだが、そういう観点に到達するのはなかなか。
また、それぞれの魂の修行もあるので世の中に揉め事は絶えない。

でも、本作のラストのように、必ず希望はあるのである。
ラスト、本当にうるっとするほど、ほっこりした。
互いを許す瞬間は崇高で、自分の魂も救済された気持ちになるものだ。

 

監督・脚本 ジアド・ドゥエイリ
脚本 ジョエル・トゥーマ
出演 アデル・カラム リタ・ハーエク カメル・エル=バシャ クリスティーン・シュウェイリー
カミール・サラーメ ディヤマン・アブー・アッブード カルロス・シャヒーン

※113分

※8月31日(金)~全国ロードショー
(C)2017 TESSALIT PRODUCTIONS–ROUGE INTERNATIONAL–EZEKIEL FILMS–SCOPE PICTURES–DOURI FILMS

 

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