美しい魂を持った少女は無敵なのだ!
女性の成長と幸せ探しを描く秀作アニメ
斬新なアニメーションだ。
筆の線画。
それが縦横無尽に動く。
線が風になり、樹になり、果実になり、川になり、人になる。
水彩画のような柔らかい色がそれらを包む。
こんなシンプルなアニメーションは初めて観た。
監督が全て一人で作画したというから驚く。
まるで、簡素な紙芝居のようで、夢中でこの示唆に富んだおとぎ話に見入った。
水車小屋に暮らす貧しい親子。
父親はある日、悪魔と取引して一人娘と引き換えに黄金を手に入れる。
母親は怒るが、野犬に食われて死ぬ。
娘は悪魔に追い詰められた父親を救うために自分の腕を切り落とさせる。
腕を失った少女は父親を捨てて家をでる。
悪魔は何度も娘に手を出そうとするが、娘の持つ魂が美しすぎて手を出せない。
しかし、娘を執拗に追う。
娘は放浪するが、王宮に迷い込み、王子に見初められて后となる。
子もでき、金色の義手も作ってもらい、幸せな日々が続く。
だが、戦争が始まり王子は戦いに出てしまう……。
人は今生で何度でも生まれ変われる
経験を積み、賢くなってより良い人生を
リンゴの樹に登り、リンゴをかじり昼寝して樹の上からおしっこをする、自由気ままで自然児のような娘。
彼女はお金がなくても幸せだった。
しかし、悪魔から逃げて王子と結婚して金色の義手も作ってもらったが、その義手は形だけで、重くてなんの役にも立たない彼女を縛る義手だった。
途中で少女はその義手を捨てる。
そして王宮を出る。
再び自由になって。
それからの少女の旅が小気味良い。
女は少女から娘になり、女になり、母親になり、そしてまた新しい女になる生き物だ。
少女は自分が気持ちよく生きていける場所を見つける。
そして、そこに男は必要? なのか。
映画のラストはその答えである。
本作は、本来の女性の幸せな生き方を描いていると思う。
いや、女性だけではなく、人間は何度でも生まれ変わり(輪廻転生ではなく)生き直せるのだ。
今生の一生のうちに。
歳をとり、経験を詰むことによって賢くなり、より良い人生を歩める。
そんなよく語られたメッセージを美しい絵で綴ってくれる童話。
童話だけに妙にすとん、と素直に腑に落ちた。
そして、絵本を読んだあとのように、私は安心してぐっすり眠ったのだ。
魂を磨くことは人生の必修科目
美しいものに触れると魂は共鳴する
「おまえは美しすぎてどうしても手を出せない」悪魔のセリフにハッとさせられる。
美しいスピリット、魂を持っていると悪魔は手を出せないのである。
これは、肝に銘じておくといい。
いつも、綺麗な魂でいること。
魂を磨くことは生きていく上での必修科目だ。
小品ながら、その絵の美しさと内容の美しさで忘れがたい一作となった。
美しいものに触れると私たちの魂も共鳴して美しくなる。
監督 セバスチャン・ローデンバック
原作 ヤーコプ・グリム ヴィルヘルム・グリム
声の出演 アナイス・ドゥムースティエ ジェレミー・エルカイム フィリップ・ローデンバック
サッシャ・ブルド オリヴィエ・ブローチェ フランソワーズ・ルブラン
※80分
※8月25日(土)~全国ロードショー
© Les Films Sauvages – 2016
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