一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.110「健さん」

高倉健の姿を通して、私たちは何を見るのか?

高倉健の知られざる素顔に驚く
胸揺さぶられるドキュメンタリー!!

高倉健が亡くなって2年がたつ。
あまり思い入れのない俳優だったけど、この映画を観て、
「健さんて、すごい役者だったんだ」と認識を新たにした。

そして、偉大な人を日本は、日本人は失ったのだ。彼の死は、日本人を支えてきたメンタル部分の手痛い喪失だったのだと、思い至った。

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もう、二度と出てこないスターであり、役者。そのことを、死んでから私たちは気づき、確認し、涙を流す。すべては亡くした後で気づくのだ。

本作を観て、私たちはやっと、健さんにお別れができるような気がした。
素晴らしい作品の数々をありがとう、健さん、と。

映画は健さんのことを知る人々の証言と彼の映像、そして多くを語る写真から成る。かなり、人選は凝っている。東映時代のスタッフや、後輩俳優はもちろん、40年来の付き人や、健さんの妹、そして外国からはマイケル・ダグラスやマーティン・スコセッシ、ヤン・デ・ボンなど多岐に渡り、健さんの素顔や役者としての凄みを余すところなく知ることができる。しかし、結局コアな部分は誰にも分からないのだろう。俳優なんだから、それでいい。私たちはスターという虚像を楽しむのだから。本作を観て、自分なりの健さん像を作ればいい。

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梅宮辰夫氏

 

優れた役者であり、美しい男だった
健さんの魅力を再確認させられる

さて、証言の中でも私が感動したのはマイケル・ダグラスの話だ。『ブラック・レイン』共演時の健さんの演技で、自分の演技の不味さを知り、健さんの演技に驚き、また自身の俳優生活、人生について語るその姿は真摯なもので、痛く好感を持たせる。イイ役者だったんだ、マイケル!! と驚いた。

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マイケル・ダグラス氏

 

最近読んだ樹木希林のインタビューでも、健さんについて「あの人は案外芝居がわかっている人よね。スターじゃなくて、意外に役者。優れた俳優だったわね」と言ってて、私も彼の演技うんぬんについてはあまり評価してなかったので、眼から鱗の証言だった。

また、立木義浩や、映画のスチールカメラマン、撮影監督でもあったヤン・デ・ボンがそれぞれ「とにかく美しいんだよ」「仁王像みたいな顔なんだ」「彼(の顔)はどこから撮ってもOKだった」と言うのに、改めて健さんの美しさを思い知った。カッコイイのは、分かってた。でも、そう、美しいんだ!!

 

理想の日本の男を演じ続けた高倉健
彼の姿に日本人の精神性を見る

そして、健さんが「どんな役を演じたい?」と問われて「日本の男です」と答えたのにも、心を衝かれた。そう、彼はずっと「日本の男」「理想の日本の男」を演じ続けてきた俳優なのだ。「理想」だから、現実にはほぼいないのである。だから、皆夢中になったのだ。
「日本の男」は、今、どうなっている?
日本が失ったものは大きい。

最後に、健さんの母親が「家の息子は日本一だよね」と生前語ったという健さんの妹の証言には涙が溢れそうになった。

高倉健の姿を通して、私たちは何を見るのか?
私は失われた日本人の精神性を見た思いだった。
優れたドキュメンタリーである。

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■監督 日比遊一
■出演 マイケル・ダグラス マーティン・スコセッシ ポール・シュレイダー
ヤン・デ・ボン ジョン・ウー ユ・オソン チューリン 梅宮辰夫 川本三郎 中野良子 山田洋次 八名信夫 降旗康男 阿部丈之・真子 西山泰治
■95分

(C)2016 Team “KEN SAN”
『健さん』
8月20日(土)公開 第七藝術劇場ほか

 

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