二匹のまったく相反する狼がわたしたちの内にいる… 「愛の狼」だけが居住しているなら世の中はもっと住みやすいですが、どうして「憎しみの狼」が住んでいるのしょう?
Which Wolf Are You Feeding?
アメリカン・インディアンのチェロキー族が伝える話で「二匹の狼」というのがあります。
一方の狼は、喜び、平和、愛、希望、謙虚、優しさ、寛容、誠実を表し、他方の狼は、妬み、恨み、怒り、悲しみ、後悔、横柄、憎しみ、嘘つきを表しています。
この二匹の狼が、わたしたちの内で戦っているといいます。仮に前者を「愛の狼」、後者を「憎しみの狼」と呼ぶことにします。
どちらが勝つと思いますか?
インディアンの長老の答えはこうです。
“The one that you feed”
餌を与える方ですね。
この話を知ったのは、“Buddha’s Brain: The Practical Neuroscience of Happiness, Love, and Wisdom”という二人の脳神経学者によって書かれた本で、訳書は「ブッダの脳」です。
二匹のまったく相反する狼がわたしたちの内にいる……確かにそうだと思うのですが、どうして「憎しみの狼」が住んでいるのしょう? 「愛の狼」だけが居住しているなら世の中はもっと住みやすいですよね。
「憎しみの狼」はサバイバルのために生まれた脳のしくみといわれている
昔、わたしたちの祖先は、外界の危険や過酷な自然環境の中で生き延びるために部落を作りました。
そして、敵と味方、自分たち(US)と外部の者たち(THEM)の区別をつけるようになり、共同意識(部落意識)と敵対意識を生みだしたのです。
脳をオートパイロットにしておくと、USとTHEMの区別をし、THEMなら、ぞんざいに扱ってもよいと判断します。
たとえば、映画のヒーローが悪党をやっつけるのを見て気分がスカッとするというのも「憎しみの狼」が内在している証拠だそうです。
テロや殺戮のニュースを聞けば、どうしてそんなことができるのだろうと思ってしまいますが、万人がその素質を持っているんですね。
違うのは、どちらの狼にえさを与えたかということだけです。
「憎しみの狼」は、サバイバルの過程で生まれたので悪ではありません。
たとえば、襲いかかってくる相手に怒りの感情を起こせば、自分の身を守る勇気が出てきます。怒りの感情というのは強力なエネルギーですからね。
ただ、普段の生活では、いき過ぎていないかを観察する必要があります。独善的になっていないか、侮蔑や偏見といった形を取っていないかどうか……
おそらく育った環境などで個人差はあるでしょうが、得てして人間の脳はネガティブ偏向になっています。
楽しい経験はさっと流してしまうのに、苦痛の経験は何度も反芻して味わいます。
脳が持つネガティブ偏向というのは、サバイバルのためである
他にすることがないとき、脳は危険がないかを常に確認しているため、ポジティブな情報よりもネガティブな情報を察知するのが早く、ネガティブなことは一度起きただけでも将来のためにしっかりと記憶に刻まれます。
しかし、脳にはneuroplasticity(神経可塑性)という性質があり、年齢に関係なく自分で変えることができます。だから、ネガティブ偏向を修正してポジティブ指向の回路に変更できるのです。
食事が美味しいというようなほんの些細なことでいいんです。
楽しい経験をしているとき、ゆっくりその満たされた感情を引き伸ばして十二分に味わいます。
このとき、五感を総動員して味わうと、記憶にしっかり刻まれます。
また、自分の思いに気づくことも大切です。
オートパイロットではなく、“be conscious”です。気づかないと、方向転換はできません。
そのためには、気づいたら立ち止まって、今自分は「どちらの狼に餌を与えているのだろう」と考えてみる習慣をつけるとよいかなと思います。