私がインドで生活をし始めた頃は、まずとにかく「生のモノはとりあえず食べてはいけない」というのが、ある種の常識みたいなものになっている風潮があり(特にインドに来て間もない外国人にとって)、日本で生活していた時のように、「え? 野菜は洗ったら生で食べれるでしょ。キャベツの千切りとか」的な、軽い感覚はインドにはありませんでした。
そもそもその洗う水自体にも衛生的な問題があるという理由で、軽々しく生のものを口にしてはいけない(水道の水を飲むなどもちろんご法度)という、インドの厳しい環境に、当時はカルチャーショックを受けたものでした。
そしてインドでの日常生活を送っているうちに、次第にインドの人たちの食生活を知る機会もあり、まず気づいたのは、「そもそも生野菜自体がそれほど食べられていない」ということ。
インドの食卓では、ちょっとしたつけあわせ程度の生野菜(大抵、トマト、キュウリ、生の紫玉ねぎがメイン)を添える程度が主流で、ボールたっぷりの生野菜にドレッシングをかけてサラダにして食べるという発想自体がありませんでした。(これについては以前、バックナンバーVol.27でも書かせていただいたのでご参考にどうぞ)
今回はそのあたりの背景と、野菜は生で食べるのがいいのか、加熱調理した方がいいのか、といったテーマでお伝えしてみたいと思います。
■生の野菜と加熱処理した野菜。
ヨガとアーユルヴェーダ、それぞれのアプローチ
アーユルヴェーダの著名な専門家のひとり、デヴィット・フローリー博士の著著「Yoga & Ayurveda」によれば、アーユルヴェーダでは一般的に「長期間にわたり、健康を維持する目的のために、生の食べ物のみで構成された食事をすすめる」ことは、まずありません。
ただし、短期間のみ、体を解毒する目的のために、生の食べ物で構成された食事を一時的にすすめられることはあります。
これは、基本的に生の食べ物は消化が悪く、調理された食べ物のように豊富な栄養分を体に供給することができないためです。
アーユルヴェーダでは基本的に、ドーシャのアンバランスを中和するために特定の食事法が指示され、これらは一般的に栄養バランスのとれた菜食で、全粒穀物、豆類、根菜、ナッツやシード類、そしてごく少量の生の食べ物が添えられる形がメインになっています。
このため、「アーユルヴェーダでは生の食べ物はよくない」と考えられてしまう原因にもなっていて、これがインド家庭の食卓の中でも反映されています。
一方、ヨガの伝統的な教本ではよく、生の食べ物の重要性が叙述されていることがあり、実際、自然の静かな場所にいるヨガ行者たちは、霊的日課のひとつとして、また、自然の力と繋がるひとつの手段として、野生の生の食べ物を食べて生活するといいます。
これは、どういうことなのでしょうか。
そのあたりのことをもう少し詳しく見てみましょう。