魂を動かすヒーリング・グッズ PART.2~まるでふたりの僧の会話のような音の響き「ティンシャ」

同じ金属の音でも、シンバルのような大きな楽器で打ち鳴らされる音は、はっとさせられて、一 瞬、時が途切れるような覚醒が起きる。
このチベッタン・ベル、ティンシャはそれに比べて直径7センチほどの、掌のなかにすっぽりと入ってしまうくらいの小 さなもので、チベットの僧侶が法具として使う。一つ一つ手作りで作られるので、デザインも音も、異なる。材質も、銅、銀、亜鉛、鉄、鉛、錫などの3種類か ら12種類のメタルを用いているため、長く美しい共鳴をもたらす。

購入する際には、ひとつひとつを試してみなければならない。混合メタルの重量感に加えて、「Om Mani Padme Hum」(オンマニペメフム)と観音菩薩のマントラの刻まれた存在感が大きいので、扱いはどうしてもうやうやしいものになってしまう。
あるとき、このティンシャを打ち鳴らすパフォーマンスを見る機会があった。
通常は、ふたつのベルをつないでいる皮ヒモを両手でぶら下げて、ちょうど ベル同士がぶつかり合う高さをみはからって、タイミング良くそっとぶつけて音を出すだけなのだが、パフォーマーは、ベルとベルがぶつかり合ったあと、両手 でベルをつり下げながら、踊り手さながらに、さまざまに動かしていくのだった。すると、余韻の音がその動きに合わせて動いていく。ふたつのベルは響き合い ながら楽曲の様相を奏でていく。

目を閉じて耳を澄ませていると、それはまるでふたりの僧による会話のようにも受け取れた。
そ のとき、ふたつの鐘は個々の語り口を示していた。考えてみれば、神社の狛犬や仁王、沖縄のシーサーなど、宗教的な像のモチーフは一対で存在する。こうした バランスするふたつのものは両者は同じではなく、それぞれが独立した個性を持っている。ティンシャもまたそうしたものたちと同様の物だと理解できる。ふた つのベルはそれぞれ音色も少しずつ違う。

研究者によると、ティンシャのこの音の微妙なずれにより、毎秒4~8サイクル間の超低周波が生じ、これが瞑想の時にに生じる周波数と同じになるため、ティンシャの音を聴くと脳波が瞑想状態に近づく作用があることが科学的に判明されているそうだ。
この時のパフォーマーが打ち鳴らすティンシャのふたつのベルの音は、魂に何かをよびかけるように、響き渡り続けた。

ヒーラーはおもに、ティンシャをヒーリングの部屋の浄化に使う。チベットの僧侶は祈りの道具として使っている。ティンシャは、魂の目覚めや自己の覚 醒、混濁した幻覚に満ちた世界に住む私たちに、自分は何かということを問いかけるチャイム。チベットでは不滅の言葉とされている、退魔、幸福を呼び込むた めの呪文でもある、刻まれたマントラ「オンマニベメフム(“蓮の花の中の宝よ”」とひと鳴らしごとに唱えることにもなる、癒しの聖なる道具なのだ。