先生がこちらを見て、黙ったまま会釈をしてきました。私はその瞬間、凍り付きました。
「この人は魔女だ、魔女がここにいる……」
部屋がシーンとした空気に包まれました。
マダムシェフが私の事をみんなに紹介をし始めました。
「この子は上野ユリちゃんといって、不思議なご縁で引き寄せられ、皆様にもぜひ紹介したいと思い、ここに連れてきました。彼女はこう見えて、起業家で全国で活躍しており、インフルエンサーでもあります! 彼女からは不思議なパワーを感じるので、皆様もぜひ彼女のパワーを感じて下さいね。」
マダムシェフはニコニコしながら拍手をし、患者さんみんなも拍手をしてくれました。
先生はまたチラリと私の方を見て、すぐに目の前に患者さんの診療を始めました。
私は皆さんにペコリと頭を下げて、すぐさままた座りました。
隣の女性がまた話しかけてきて、
「あなたって凄い人だったのね! 良かったら握手して下さい」
と話しかけてきたので、握手をしました。
「手から凄いエネルギーが出ているわね。」
そう彼女はつぶやき、
「あっそろそろ私の番だから、ではまたね!」
と言って、先生のところに駆け寄っていきました。
私は、またその先生の診療の様子を見ながら、
「この世界って現実なのかな!? ここはどこだろうか!? 現実に帰れるのかな。」
と少し不安になりました。
ちょうど休憩時間となったので、私はその建物の中をこっそりと回ることにしました。
まるで不思議な世界に入り込んだような、今でもあの時の感覚を忘れられません。
●迷い込んだ不思議の国のアリス
館内をウロウロと歩いていると、扉が開いている部屋があったので、中を覗いてみました。
そこはヨーロッパの印象派の画家が集ったようなカフェサロンのようでした。
名画の数々に100種類ぐらいのティーカップセットがあって、その空間にとてつもなくウットリとしました。
「夢のような空間がこの世界にはあるんだ……」
私はカフェサロンの椅子に腰かけて、ご自由にお取り下さいと書いてあった飴玉を舐めながら、気が付いたら寝てしまっていました。
「……ユリちゃん、ユリちゃん、ユリちゃん」
遠くの方で声が聞こえると思って、起きるとマダムが
「もう帰ってこないから心配したでしょう!」
と言っていました。
「あっごめんなさい。何だかこのカフェサロン居心地がよくてつい眠ってしまって」
「そうね! ユリちゃんはここがお気に入りかもね。先生が世界中からこのティーカップを置きたいと思って選んで購入してきた選りすぐりのカップだもん。せっかくだから一杯紅茶を淹れましょうか?」
マダムシェフはとびきり美味しい紅茶を淹れてくれました。