現在では世界中どこのビーチでも見かけるライフ・ガードですが、ハワイのライフ・ガードたちの所属は、役所なのです。
受け持つ地区も1か所ではなく、島のあちらこちらのビーチを担当することがほとんどです。
ライフ・ガードになるためには、強い潮の流れや大波の中でも長時間泳げるだけの技術と体力があることや、救急医療など基礎的なことができる人たちが筆記と体力試験を受け、そのあとで非常に厳しいレスキュー試験を受けるという、かなりの狭き門なのです。
それだけに選ばれたライフ・ガードたちはプロ中のプロであり、あらゆる海のトラブルに対処できるよう訓練されているのです。
ライフ・ガードの起源
ハワイのライフ・ガードの起源と呼ばれているのが、ワイキキでサーフィンを楽しんでいた「ワイキキ・ビーチ・ボーイズ」です。
もともとポリネシア人たちが、板に乗って波乗りを楽しんでいた古代から、ハワイではサーフィンが盛んにおこなわれ、やがて王族が楽しむスポーツとされていました。
しかし伝道師がハワイにやって来た頃、フラダンスやサーフィンなどのハワイ独自の文化を否定するようになり、一旦はハワイから消えてしまっていたのです。
そんなサーフィンが再び盛んにおこなわれるようになったのが、1900年代初めになってからでした。
オリンピックの水泳選手でもあり、ハワイが誇る「サーファーの父」でもあるデューク・カハナモク率いる青年たち、ワイキキ・ビーチ・ボーイズたちが、ワイキキにおいて、観光客にサーフィンを教え始めたのでした。
彼らはサーフィンだけではなく、観光客にハワイの心である「アロハの精神」を伝え、親切にもてなすと共に、ビーチ・パトロールも行っていました。
これがハワイにおけるライフ・ガードの始まりとも言えるのです。
ハワイの海の達人であるビーチ・ボーイズたちは、サーフィンだけでなく、泳ぎはもちろん、釣りやカヌーのプロでもあったのです。
そんな彼らが一旦海に入ると、まるで魚のように泳ぎ、波に乗り、サメや亀たちともコミュニケーションを取りながら、自然と一体になって時を過ごしていたのでした。
ロコだからできる職務
幼い頃から海に親しんで育っているハワイの人々、特にサーファーやスイマーたちは、ハワイの自然を読み取ることは誰よりも優れています。
どんな雲が現われると、どのように波や風が変わるのか、いつ雨が降るのか、気温が上がるのかなど、すべてを把握しているのです。
また、ひとたび海にもぐれば、どの位置にどんな岩や海藻があるかもしっかりと把握し、たとえサーフボードから投げ出されたり、波に巻き込まれたりしても、自分が今どこにいてどうなっているかも理解することで、ケガや遭難を避けることができるのです。
そんなバックグラウンドを持つライフ・ガードでも、毎年行われる体力テストに不合格になると、即時に事務職へと配置転換されてしまいます。
あるライフ・ガードの経験
そんなタフな仕事であるライフ・ガードのひとり、ブライアン・ケアウラナから、かつてとても不思議な話を聞きました。
ある日、ライフ・ガードの任務中に日本人の僧侶が船から落ちて溺れたのを助けに出たのだそうです。
彼がジェットスキーで沖にかけつけたときには、すでにその僧侶は海底に沈んでおり、僧侶の全身にソフトボールより大きなウニがたくさん突き刺さり、それはもう恐ろしい光景になっていたのだそうです。
そんな彼をなんとかビーチまで連れ戻し、病院に運んだものの手遅れで、その僧侶は亡くなられてしまったのです。
するとその晩、彼の枕元に突然頭にウニが刺さった僧侶が現われ、恐ろしさで震えあがったのだそうです。
それからなんと1週間、毎日その僧侶は夜中になると彼の前に現れました。
そしてちょうど亡くなって1週間目、その僧侶は彼に「助けてくれてありがとうございました。命は亡くしてしまったけれど、あなたの行動に心から感謝します」と言ったそうです。
それ以後、その僧侶は決して現れず、おそらくお礼が言いたくて毎晩出てきたのだろうとブライアンは話してくれました。
海を知りつくした男であるブライアンでさえも、あの時の恐ろしさと不思議さは一生忘れることはないと同時に、たとえそれが霊であっても、感謝されたことはライフ・ガード冥利につきると話していました。
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