伽座守珊瑚の開運『狼語り狐語り』第12話~長老狐眷族が語る史実にはない平将門についての謎解き……

『将門の首塚』と言えば、祟りの恐ろしさとして有名ですね?長老狐眷族が【平将門の乱と朝廷の呪詛】についてお話しします。

 

「将門さまって、神田明神の平将門さまでしょう。将門さまの魂のご正体は……前世は日本武尊さま……いや、ミコトさまの双子の兄弟なの?」
「日本武尊さまが双子で協力してたなんて、古事記にも日本書紀にも書いてないよ。」
「ヤマトの呪詛をかけた王や、解こうとした王や皇子も他にもおられたって事?」
「甚六さんもグラウさんも、すごく昔の記憶はあるのに、江戸より前は思い出せないっていつも言ってました。何かあるんでしょうか?」
「いつからふたりはしりあいなの?」

長老狐の話の内容だけではなく、観衆の狐たちからは甚六とグラウへの質問も飛んできた。

 

長老狐語り……平将門について

自分たちにもわからない自分たちの過去への質問は答えたく無い甚六とグラウに代わって、長老狐は天を仰ぐと見事な夏の大三角形が煌めく夜空を見てから、子猫の『ちゃ』の額にふっと小さな炎を吐息と共に吹きかけた。炎に照らされたちゃの眉間に丸の周囲を小さな八つの丸が囲んだ『紋』が見えた。紋は一瞬の炎の灯りが消えたと共に消えた。続けて甚六とグラウにも同じ事をすると、同じく『紋』が現れて消えた。

「この子猫が来た事が記憶の封印を解く時が来た証しなのだろう。この界隈は日本武尊さまが建てたと伝えられる神社やミコトさまを祀る神社はそこここにある。縁がある眷族がいて当然で、その魂を持つ者に仕えても不自然ではない。
今そなたたちの額に浮き出た紋は、天命にて妙見菩薩様に出向した時に頂いた『九曜紋』のお印さ。将門様は妙見様を頼りにしたので、前世の縁で、つまり皆が日本武尊さまとお呼びする皇子の双子の弟の魂を持つ将門様を守るのも日本武尊さまに縁ある眷族で、一時的に妙見様のお力を頂いた。九曜紋はのちに八幡大菩薩の印にもなったがね。
で、江戸より過去の記憶がたどれないのは、千百年程前の将門さまの乱にかかわり、朝廷の呪詛で封印されていたせいだと思うよ。うん、きっとそうだ。」

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「朝廷の呪詛? ヤマトの呪詛の次もあるの?」

観衆がざわつくと、長老は【平将門の乱と朝廷の呪詛】について観衆に説明した。

「1100年程前の時代、坂東、今の関東は河川の氾濫や富士や浅間の噴火の火山灰のせいで不作続きでね。重い税や使役に苦しむ人々に代わって、民のための国つくりをしようと立ち上がったのが領主の平将門様さ。
しかし将門様ご自身、身内との領地争い、民衆の内輪揉めにお心を痛めるうちに、日本武尊の施した『東国の呪詛の封印』の存在とその封印が緩んでいる事に気づくのさ。将門さまは領民のために、そして呪詛を封じるためにもオジに奪われた領地を取り戻さねばならなかった。
菅原道真さまの霊に導かれていたとも伝えられているが、色々あって将門様は朝敵、朝廷に逆らう凶賊に仕立てられてしまう。朝廷は、将門様を討つために、当時頼りにした真言密教の調伏(呪い)の祈祷を仕掛けた。大元帥明王法、大威徳明王法、様々な祈祷をしてね。
でも討てない。あげくには最期の切り札として、都から霊験あらたかな不動様を持ってこさせたのさ。大変な力のあるお不動様で、将門様が討たれた後もこちらに残って人々の為に働きたいと申されて今の皆が知る成田不動=成田山新勝寺の本尊となった。

 

平将門討伐の記憶……

話を元に戻すと、将門さま討伐を法力のある僧がこの凄い不動様に祈祷したものだから、将門様に加勢する眷族、式神、部下たちさえも将門様もろとも動きを封じられたのだろう。
まあこれはワシが見てきたわけでは無いから、後に狼に確認してもらうといい。妙見様の紋が戻ったからには、狼は将門様の時代にアクセスできるじゃろう。
ワシが実際に見たのは400年程前の徳川様が江戸に来てほどなく、僧の天海さんが何かの呪文を唱えて、古い太刀の鞘(さや)から狼と狐を解放したのを見ていたよ。太刀は、将門さまの従者の持ち物だったそうで、ここより西の古い小さな神社での出来事さ。
鞘は将門さまの鎧とともに呪詛を帯びたまま埋められていた。それを寛永寺を建てた天海さんが天台密教の法力で浄化したんだ。そのときの狐と狼がおぬしたちだったのかも。
だとしたら、ここに暮らす因縁は有る。近くには将門様の命日に供養をし続けている日輪寺もある。寛永寺も神田明神も近い。天海さんの法力で古い記憶は少し取り戻したが将門さまと居た時代から解放される江戸までの700年近い記憶が無いのなら、天海さんは作為的に将門さまに関わった記憶を封じたままにしていたのかもな。
復讐させるわけもいかないからなぁ。記憶が曖昧なまま、元の……仮のかな? 神使眷族の任務に戻された。」