社会心理学者の八木龍平です。明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い致します。今回のテーマは「日本の神様の名前に託された真実」です。日本の神様とは何か? その本質に迫ります。
日本の神様は大きく2パターンあります。ひとつは「大自然」、もうひとつは「ご先祖さま」です。大自然とは、太陽、月、山、風、海、水、雲など。日本は自然の恵みが世界的に見ても豊かです(例:水が豊富できれい)。時に災害を引き起こすので恐れつつ、恵みに感謝し、大事にしていたことがうかがえます。また亡くなった人間を神様とするのも神道の特徴で、先人たちから続く歴史を大事にしていたことがうかがえます。
そんな日本の神様の役割を理解する鍵が、「お名前」にあります。例として、氷川神社(さいたま市大宮区高鼻町1–407)をあげると、現在、次の3柱が主祭神として祭られています。ちなみに、神様の数は「柱」(はしら)と数えます。
・須佐之男命(スサノオノミコト)……父神
・稲田姫命(イナダヒメノミコト)……母神
・大己貴命(オオナムチノミコト)……子神
この父母子3柱のお名前に、それぞれ「命」(ミコト)という文字が使われているのに注目ください。他の神社でも、多くの神様のお名前に付いています。なぜ、「命」(ミコト)と付くことが多いのでしょうか?
実は「命」(ミコト)とは「神様の使命」を意味します。例えば須佐之男命(略称スサノオ)の使命は、治水など「災害対策」と考えられます。スサノオは神話で、人々を襲い暴れる八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治しました。ヤマタノオロチは巨大で凶悪な龍とされますが、これは例え話で、現実のヤマタノオロチは斐伊川(ひいがわ)、人々を襲い暴れるのは「洪水とその被害」を指すという説があります。そうすると、スサノオがヤマタノオロチを退治した神話は、スサノオが治水に成功した物語。スサノオの使命(のひとつ)は治水と推測されます。
別の神話では、疫病対策の使命があります。詳細は省略しますが、祇園祭で厄病・災難除けのお守りとして配布される粽(ちまき)や、6月末におこなわれる「夏越の祓」の茅の輪(ちのわ)のもとになった神話です。
神社の教えである神道には「教祖・教典・教義」が無く、教科書のごとき絶対の決まりや答えはありません。以上の説も、あくまでひとつの解釈。ただデータに基づくと、かなり根拠のある解釈です。
そのデータとは東日本大震災の災害状況です。実はスサノオをお祭りする神社は、津波被害をほぼ受けませんでした。2012年の土木学会で発表された高田知紀博士らの報告によると、宮城県沿岸部全域(含む岩手県の大船渡市・陸前高田市)に古くからある215の神社を調べたところ、139社が津波被害をまぬがれ、一部浸水は23社、被害を受けたのは53社。被害をまぬがれた確率約65%です。
スサノオを祀る神社は17社。うち14社が津波被害をまぬがれ、一部浸水は2社、被害を受けたのは1社。被害をまぬがれた確率約82%です。スサノオと同一視される神様がご祭神に含まれる熊野系神社11社も、一部浸水が1社あっただけです。一方、天照大神(略称アマテラス)を祭る神社や稲荷系神社の多くは被災し、被害をまぬがれた確率はどちらも50%未満でした。
なぜスサノオや熊野の神様を祀る神社の多くが津波被害をまぬがれたのか? かつて平安時代前期の869年、東日本大震災と同じく三陸沖を震源とする津波をともなう巨大地震が起こりました。貞観(じょうがん)地震です。この貞観地震の時に、当時の人々は「津波がここまで来た」という目印をつくったようです。その目印が、スサノオをご祭神とする神社と推測できます。
昔の人々は「この場所まで来れば洪水や津波を避けられる」と、後世の人間に伝える使命を、スサノオに託したのです。これが、スサノオノミコトという御神名に隠された秘密であり、託された真実です。
「自分たちが苦しんだことと同じ苦しみを、後世の人たちには味わって欲しくない」
そう願った古代の人々が、神様にミコトという使命を託しました。いま、多くの神社で、ミコトと名に付く神様が沢山お祭りされています。いずれの神様も、昔の誰かが、神様の名前に願いを託したのです。後世の人々が自分たちのような苦しみを体験しないように。幸せに繁栄するようにと。
私の持論をすでにご存知の方でしたら、ご利益を得るとは、神様の使命を受け取ることとご理解されているでしょう。ご利益を得るとは、古代の人々が神様に託したミコトを生きることです。
ただミコトを受け取るだけではありません。現代の我々は、遠い未来の人にとって、古代の人々。我々は神社に参拝することで、古代の人々が願ったミコトを受け取るだけでなく、同時に未来の人々に我々の願いをミコトとして託します。日本では、そんなミコトのバトンリレーを、神社を通じて何千年とおこなっているのです。
あなたもこのミコトのバトンリレーにすでに参加していることを、お知りおきください。皆様の弥栄を心よりお祈り申し上げます。
(トップ画像/氷川神社の鳥居)