感情美人への道Vol.31 ~ 2500年前の感情コントロール術〜Confucius’s lessons from 2500 years ago

自分の不必要なこだわりを捨て、事実から離れず冷静に現実を見つめる大切さ。実は2500年前から説かれていた事なのですね

 

ネガティブな感情をコントロールするには、「自分が世の中をどう解釈しているか」をしっかりと把握するのが大切です。

では、その元となっている「心理学」っていつからあるのでしょう。おなじみなのはフロイト、ユングあたりですが、この2人はどちらも19世紀後半の人。日常になじみ深い「心理学」って、実は100年少ししか歴史がないのですね。

もちろん、古代ギリシャの哲学者や古代中国の思想家もあれこれと生き方について述べていますが、正直今の私達にはピンとこない部分もあります。
でも中には、現代の研究と寸分違わず同じ事を説いている偉人もいるんですよ。

シェークスピアも「絶対にあなた心理学やってたでしょう!?」と思えるほど、理論的に心理を描く天才なのですが、今回は孔子を紹介しましょう。

 

孔子は古代中国(B.C552-B.C449)の春秋戦国時代を生きた、儒教の祖です。

有名な『論語』は、孔子の死後弟子達が記した書物で、今日はその中に書かれている「意必固我(いひつこが)」という言葉を解説します。
これを実践していけば、感情コントロールのマスターになれますよ。

書き下し文はこのようになります。
『子、四を絶つ。意なく、必なく、固なく、我なし』

意訳です。
『先生は四つの事を絶たれた。勝手な心を持たず、無理押しをせず、執着せず、我を張らない』

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磯田道史氏著『無私の日本人』に、これを分かりやすく記した箇所があります。
中根東里(なかねとうり)という江戸時代の儒者が、「無我」という占い師の友人と知り合うシーンです。

東里が「無我などと妙な名前なのは、なぜか」と尋ねると、無我はこう答えます。
「孔子さんは、意必固我の四つを絶て、と、おっしゃった。憶測するな。決めつけるな。凝り固まるな。我をなくせ、と。しまいの我を絶つのが、いちばん、むつかしい。それで無我と号しております」

これは心理カウンセラーやコーチがよく使う「認知の歪み」や「視野を広げる」のと全く一緒です。

更には行動経済学の「損失回避の心理」にも通じるものがあります。

私達は「正解か不正解か」の二元論で判断したり、相手の心や出来事を勝手に解釈して出来事に荒唐無稽な因果関係を築こうとしたり、「〜すべき」といって自分のルールを他者に押し付けたりします。

そしてこれらが相まって、怒り・不安・孤独・焦燥感などにさいなまれていくのです。「意必固我」は「これに執着して人生を誤らないように」と、孔子が説いた言葉なのです。

「意必固我なければすなわち君子(器の大きい人・リーダー)なり。意必固我あればすなわち小人(器が小さい卑屈な人)なり」

自分の不必要なこだわりを捨て、事実から離れず冷静に現実を見つめる大切さ。実は2500年前から説かれていた事なのですね。

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故事には残る理由があります。論語なんて堅苦しいと思わずに、ぜひ一度味わってみられると良いですよ。自分を鍛えるには歴史を知るのも一興です。

 

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参照:
『論語』岩波文庫 金谷治 訳注
『無視の日本人』文芸春秋 磯田道史