チベットで、多くの信仰を集めている「女性性を体現した救済をもたらす仏様」

紀元前から現代まで続く有力な宗教は、当初、女性の仏様はほとんどいなかった中、珍しいのが“多羅菩薩(たらぼさつ)”です

仏教には、さまざまな仏様が存在しています。
日本では「不動明王」「観世音菩薩」「地蔵菩薩」などがポピュラーであり、さまざまなお寺に祀られていますが、チベットで、もっとも多くの信仰を集めている
「多羅菩薩(たらぼさつ)」はほとんど知られていません。

ユダヤ教や仏教など、紀元前から現代まで続く有力な宗教は、どちらも女性原理を重視してはいませんでした。当時の社会自体がそういう仕組みで動いていたせいかもしれませんが、一神教であるユダヤ教はもちろん、さまざまな仏様がいる仏教でも、当初は女性の仏様はほとんどいなかったのです。

現在では女性的なイメージがある「観世音菩薩」も、当初は勇者的なイメージをもった男性だったものが、次第に女性的な要素を帯び、中国の女神信仰などと結びついたことにより、最終的にはほとんど女性のイメージが定着したのです。

Was born from the tears Buddha……

そんな状況の中で、
観世音菩薩の涙から生まれたといわれている
「多羅菩薩」は、当初から明確に女性の姿をした仏様であり、少女の姿や中年の女性の姿をとって現れるといわれています。そのために、仏像も、たいていは大きな胸とくびれを備えており、明確に女性だということがわかります。

別名「救度仏母」とも呼ばれており、
額の第三の目と、両手のひら、さらに両足の裏にも目をもっており、全部で7つの目から慈悲の光を発することで、人々を救済してくれます。当初の仏教では女性は成仏することができないといわれており、
「変成男子(へんじょうだんし)」といって、霊的な意味で男性に転生しなければ成仏はできなかったわけですが、
多羅菩薩は女性もふくめて、すべて成仏させてくれる存在です。

ちなみに人気がある存在である「菩薩」ですが、仏様の中では修行中の存在であり、さらに上位の存在として「如来」といわれる、悟りを開いた状態の仏様がいますが、チベット密教では、多羅菩薩などの女性の仏様は如来と同格としているほどです。

また、「多羅菩薩」の特徴としては、
「白多羅菩薩」「緑多羅菩薩」というように、持つ力にあわせて「色」がついているところです。前述した7つの目があるのは「白多羅菩薩」だといわれていますが、他にもさまざまな色の多羅菩薩がいるのだそうです。

このように色分けされたのは、
「多羅」という言葉が「星の光」を意味しているからなのかもしれません。天の星はさまざまな色で光っていますので、そこからさまざまな色の多羅菩薩が生まれたと考えられます。

女性らしさと、慈悲の力をもち、浄化のパワーをはじめとして、星の力までも、秘めたこの仏様は、西洋でも知られており
「オラクルカード」にも登場するのですが、不思議と日本の仏教では重要視されていません。

京都伏見にある「勝念寺(しょうねんじ)」には

かまきしん

出典:京都 伏見 勝念寺

「金銅多羅観音菩薩坐像」が祀られていますが、
こちらも当初は如意輪観音だと思われており、
多羅菩薩だとわかったのは、
比較的近年のことのようです。

その姿からして、女性らしさを現している多羅菩薩は、女性の優しさと母性にあふれた存在であり、女性の守護仏ともいえますので、今後、日本でもよりその存在が認知されて欲しいものです。

今回紹介したスポット

・勝念寺
京都市伏見区石屋町521