一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.71 「傷だらけのふたり」

立場が違う二人が恋してしまうことで、身もだえするほどの「不幸」に落ちてしまう……

人生に悲しみや苦しみがなければつまらない
甘美な不幸に浸るラブ・ストーリー

やられました。思ってもみなかった展開に大号泣。いや、韓国映画ではよくあるいつもの展開なんだけど、とにかく「泣かせる」のが上手いんだ、これが。「その後」、「余韻」と素晴らしいラストで悲しみを倍々にする脚本は素晴らしい!
「上手いなあーっ」とだだ泣きしながら感心しきり。
久々に映画で大泣きして、すっきりしつつ、強烈な映画の世界にくらくらしながら家路を辿れた「幸福な映画」だった。
内容としては一応「悲しい話」なんだけど、私はすごく「幸せな恋の話」と思った。「傷だらけのふたり」というタイトルだけど、「幸せなふたり」でも良いのではないかと思う。
悲しみって、苦しみってほんと「甘美」だよね、と韓国映画やドラマで描かれる過剰な不幸を見る度に強い快感だ。身もだえするほどの「不幸」ってなんと見ごたえのあることか。人生に人間に悲しみや苦しみは必須である。それがなければ実は人生「楽しく」ないのである。良く出来たドラマはいつもそのことを思い出させてくれる。

 

サブ1

チンピラ役のファン・ジョンミンの
「狂気」と「荒んだ」眼差しに注目!

さて、話は簡単に言ってしまうと40歳のチンピラが、堅気の銀行員の美人に恋するというもの。チンピラは高利貸しの取立てを生業としていて、おそらく初めての恋だろう。このチンピラはへこたれない男で、嫌がる美人と無理やり食事を共にする契約を結び、毎度毎度食事に口をつけない彼女と不毛な逢瀬を重ねる。それも、毎回美味しそうな韓国ランチメニュー。しかし、この男の純真さというか、可愛げというか、馬鹿っぽさに女は段々ほだされて、ついに食事に箸をつける。こうなったらもう女はすぐ落とせるんである。いつしか恋仲となるふたりなのだが、ここからが韓国映画の真骨頂!  怒涛の不幸が押し寄せる……。

このチンピラ役のファン・ジョンミンが良い。日本の俳優にいそうな顔なんだけど、この眼差しは日本人にはいない独特の眼差しなのだ。ちょっと「悪い男」のチョ・ジェヒョンに似たある種の「狂気」と「荒み」がある眼差し。強く印象に残る眼のあたりの雰囲気。こういう強い眼って、今の日本の俳優にはほとんど居ないような気がする。

サブ6

一番泣けたのは無防備に泣きじゃくる
チンピラの気持ちのどうしようもなさ

一番泣けたのは、彼がいろいろあって、そのことを彼女に言えなくてずっと隠しているんだけど、ついに彼女に知られてしまい、大泣きする場面。子供みたいにただ泣きじゃくるんだけど、韓国の男の人ってマッチョのようでいて、実は中身はマザコンで子供って人が多いらしい。彼ももう一杯一杯になっちゃって、ただ彼女の前で泣くしかないってのが、心情的にすごく良く分かってこちらも号泣!! なんの説明もセリフもなくただ泣くだけのカット。それに続くラストシーンもすごく静かで何事もないようで、突然こみ上げる激しい悲しみを巧妙に表現していて、またどあーっと涙がしとどに流れ落ちた。もう、ダメッってくらい泣く、
ずるいっ! ってなラストだ。
「グリーン・フィッシュ」とか「息もできない」みたいな後味。どれも名作。
切ない……。それでも生きていかなくちゃ……。ヒロインの涙が雪に舞う。

韓国映画はほんと、ずるいよね。生きる元気をくれる。強烈に悲しむことで。

サブ3

■公開中
■監督 ハン・ドンウク
■脚本 ユ・ガビョル
■出演 ファン・ジョンミン ハン・ヘジン クァク・ドウォン チョン・マンシク キム・ヘウン ナム・イル
■120分