~演劇UNIT乱run~
12月31日~1月6日まで下北沢の本多劇場で公演していた【演劇UNIT乱run】のお芝居『365000の空に浮かぶ月』を観てきた。大竹浩一、斎藤工、波岡一喜、福士誠治の4人が織りなす月をテーマにした物語。舞台上では竹のようなもので三日月、満月などを現し、劇場全体をプラネタリウムにして星々を散りばめられ、ファンタジックで幻想的な演出になっていた。
語り続けられるある陰陽師の物語、
そして人と人を結ぶ月の形をした石
5つの時代が何度も入れ替わり、物語が進む。
コメディかと思うほど笑うツボがいっぱいあり又、4人の出演者は何人もの登場人物になる為見事な早替りを魅せる。
平安時代、能力のない陰陽師があるはずのない能力を使ったように見せかけ、人々からお金をせしめていた。ある平家の下男にもののけが憑いたといい、うその能力で憑き物を除霊し、貴族からお金をせしめたのだ。もちろんこの下男もグルだ。
先日の貴族が陰陽師を呼び、唐の僧侶の霊が取りついている笛を除霊してほしいと願う。そこには本物の陰陽師の姿がある。本物の陰陽師が笛の話を聞くと、偽物の命を奪ってくれたら成仏する。と言うのだ。陰陽師は偽物だという密告がありその陰陽師を殺そうと試みる。
実は偽物のふりをしている本物で本当の力というものは隠しているものなのだ!!と自分の能力を見せ恐れおののいた平家は逃げていく。
本物の陰陽師も密告した者も実はお芝居。陰陽師は横のつながりを大切にし、時には陰陽師には特別の力が備わっている事、神秘性や権威をこうして示すのだ。そして本物の陰陽師と偽物の陰陽師は実は兄弟でどの程度で貴族が逃げ出すか月の形の石を賭けていたのだ。この時は本物の陰陽師が勝ち、月の石を持っていった。
時が変わり、川崎行きの列車に乗ったいつも同じ動作を繰り返す不思議な乗客とミステリーが大好きな車掌の話。わざと手帳を落として父が残したこのノートに書かれている暗号の意味を知りたいと、車掌の協力を得ようとするのだった。
物語と月の形の石は、
いくつもの過去世を通して人と人を結ぶようだ。
いくつもの時代が移り語が進んでいくのだが、どの時代でも陰陽師の話が先祖代々、人から人へと語り継がれていることがわかってくる。その物語の終わりが人によって違い【その物語には続きがあって・・・】と続きが語られていくのだ。更に【その続きはあなたが考えて下さい】とリレーのバトンのように手渡される。その物語と同時に月の石も人から人へと受け継がれているのだ。
月は正面を向いている。自分の後ろ姿を見せず、
必ず前を向いて、地球を観ている。
何度も時代が変わりながら物語の語りと月の石を通して、出演している4人がいくつもの過去世で一緒にいたような、生まれ変わりながら大切な事を受け継いでいく物語のように感じてくるのだ。もちろん家族の絆や、人と人の信頼関係や絆とも受け取れる。
そして気になる父の暗号である【月の背中】の意味は、月はいつも正面を向いている。同じ表情をしている。それは地球のまわりを廻る公転と月の自転の速度が合っているから。常に自分の後ろ姿を見せず、必ず前を向いて、地球を観ている。
そう、人生はいろんな事がある。そこから逃げ出すこともできるし、見ない振りもできる。でも月が常に前を向き後ろを見せずにいるように、自分の心を欺くことはできない。先延ばしをしても結局自分と向き合うことになるのだ。
そして常に前を向き、例え途中、立ち止まったとしても、一歩一歩でも目の前の道を凛として歩んでいきたい。歩んで行こう。と私たちに伝えているように感じるのだ。
平安時代に生きていた人も、戦後の希望を見いだせずにいた時代に生きていた人も、そして現在生きている人も、空を見上げると美しい月が変わらずに私たちにその光を注いでくれている。その美しさに疲れた心が癒され、元気が出て、さあ、明日も頑張ろう!と同じように思っていたのだろう。そしてこれからもきっと。
そしてこの陰陽師の話の続きは、この舞台を観た者が語り続けてくれるだろう。そう願って。