中村うさぎさんコラム「どうせ一度の人生・・・なのか?」part.8 「生きる権利」と「死ぬ権利」

思わぬ病により、死を身近に考えざるを得なくなった中村うさぎさんが考える尊厳死とは。

アレハンドロ・アメナーバル監督作「海を飛ぶ夢」を観た。
実在の人物をモデルとした作品で、「尊厳死」を求めて戦う男の話だ。
主人公は若い頃に事故に遭って首から下が動かなくなり、兄の一家に介護されながら30年近く暮らしていたが、その生活に耐えられなくなって、「死ぬ権利」を求めて裁判を起こしたのだ。
映画では彼が友人たちの助けを借りて服毒自殺を遂げるところまでが描かれている。

画像はAmazonより。「海を飛ぶ夢」DVD

画像はAmazonより。「海を飛ぶ夢」

「生きる権利」と「死ぬ権利」

人間には「生きる権利」もあるが「死ぬ権利」もあるはずだ、というのが、かねてよりの私の考えであった。
この映画を観てから、ますますその思いは強くなった。
人生をどこでやめるか」を自分で決めたいと思うのは、私だけではないだろう。
むろん私には自殺する手段も機会もあるが、この映画の主人公のように自力で起き上がることもできない身体では自殺もままならない。
本人が生きていたくないほど苦しい人生を、誰が強要できるだろうか。
彼らの「死ぬ権利」について、もっと真剣に討議されるべきだと私は思う。

どこかユーモラスさえ感じた尊厳死

スイスでは「尊厳死」が認められているそうで、フランス人のお婆さん(彼女も半身不随らしい)が看護師の助けを借りて安楽死する動画を観た。
なかなか口うるさい婆さんで、服毒したはいいが薬がまずいと文句を言い、チョコレートを何個も立て続けに食べさせてもらって、死の直前まで「まずい薬ねぇ!」とブツブツ言ってたのが面白かった。
感傷的なシーンは一切なく、本人も周りもサバサバしてて、どこかユーモラスなくらいだった。
尊厳死や安楽死の現場がすべてこんなふうに明るいとは思わないが、それでも死に対する必要以上の湿っぽさやわざとらしいほど厳粛な態度を普段から嫌っている私にとっては、胸のすくような動画だった。

「死」を楽しみにする人生があってもいいでしょ

中村うさぎ

そんなのは小学生だって知ってる。
死というものを大げさに受け止める必要などないのだ。
だって、それは自然の摂理でしょ。
遺された家族の悲しみには同情するが、だからといって死にたい人に向かって「何が何でも生きろ」と強要するのはひとつの暴力ではないか。
その人たちの苦しみを、誰が代わってやれるというのだ。

そんなわけで、これから「死」について私なりに考えていきたいと思う。
ネガティヴな死ではなく、ポジティヴな死だ。
「なんでもかんでもポジティヴ主義」は嫌いだが、こと「死」に関しては、世間の反応がネガティヴ過ぎると感じるからだ。
「死」を楽しみにする人生があってもいいでしょ。
 

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