私が何故、霊視者を信じないかというと、びっくりするほど当たる霊視者に遭ったことがないからだ。
ずっと以前、アメリカで有名な霊視者だという男性に、雑誌の企画でお会いした。
当時、私は買い物依存症の真っ最中で、週刊文春で「ショッピングの女王」という買い物依存症の実況中継的なエッセイを書いていた。
そのような情報が彼にどの程度伝わっていたのかは定かではない。
ただ、彼が霊視した私は的外れもいいとこだった。
彼は私のことを「買い物の達人」だと思い込んでいたらしく、私に対する霊視もそれに沿っていたのだが、そもそも私は買い物の達人などではない。
その正反対だ。
大金はたいて、着ることもないディオールのドレスや雨の日に差せないシャネルの傘などを買い込んでいた女である。
彼の話を聞きながら、私は思っていた。
ははあ、なるほど。
彼は私と会う前に私のことをひととおり調べようとしたに違いない。
しかし残念ながら、彼も彼のブレーンも日本語が読めないので、私が買い物関係のエッセイを書いていることはわかったものの、その内容までは把握できなかったのだろう。
それで私のことを「買い物の達人」などと誤解してしまったのだ。
アメリカで有名な霊視者にして、この体たらくだ。
彼に何かしらの真実が見えているとは到底信じがたい。
しかし、これは雑誌の対談なので、なんとか話を続けなくてはならない。
私は話題を変えて、彼の「霊視」とは具体的に「何がどのように視えている」のか尋ねてみた。
すると彼は「バスの窓から外の風景を見ているように、僕には相手の人生が見えるのです」と答えた。
私の人生が彼の窓から見えてるなら、私が買い物し過ぎて預金残高が250円くらいになって銀行のATMの前で凍りついている姿や、エルメスでバッグを買おうとしたらクレジットカード会社から店に電話が入って断られて愕然としている姿などが見えていたはずである。
「買い物の達人」なわけ、ねーだろ!
要するに、彼には私の人生なんか見えてなかった。
「ショッピングの女王」というタイトルで買い物関連のエッセイを書いている、というネットで拾える最低限の情報しかなかったわけですな。
うーん、こりゃインチキだろう。
その後も「霊視者」を名乗る人と何回か会った。
あるおばさんは「霊感占いバー」をやっていて、私を見るなり「あんた、頭の病気で40歳までに死ぬよ」と断言した。
あれから25年以上経つが、59歳にして私はまだ生きている。
「頭の病気」が何だったのかわからんが、少なくとも脳梗塞や脳腫瘍などにはなってない。
確かに一度死んだけど(55歳の時にな)、あれは脳ではなく身体の痛みによる心肺停止だ。
このおばさんは、後に私が細木数子のことをエッセイで書いたのを読んで何故だか激怒し、「あんなインチキ占い師と私を比較するとは! 一生恨んでやる!」という呪いの手紙を寄越した。
彼女のことなどひと言も書いてないのに、私が皮肉を込めて細木数子を「凡百の占い師とは一線を画す大物占い師様」と形容した部分を読んで「凡百の占い師とは自分のことに違いない」と思い込んだようだ。
べつにこれ、慣用句だからね、あなたのことなど念頭にもありませんでしたよ。
彼女の手紙は便箋に細かい字でびっしりと書かれており、ところどころに赤インクによるアンダーラインや二重丸が書き込まれていて、いかにも「ある種の人々が書く手紙」の典型のスタイルであった。
で、私は思ったね。
この人には霊視なんかできてるはずがない。
霊視ができるなら、まずこんな誤解はしないはずだし、この人が「霊視」だと思っているもののすべては彼女の妄想の産物なのだろう、と。
でもまぁ、本当に40歳で死ぬかどうかには興味があったので様子を見ることにしたのだが、案の定、無事に40歳を超えたので夫や友人たちと祝杯をあげた(笑)。
他にもいろいろあるが、とにかく私はそれ以来、「霊視」なんてものを疑問視し続けている。
前回も言ったように、彼ら彼女らに何かが見えてることは否定しない。
だから嘘つき呼ばわりするつもりはない。
ただ、それは彼ら彼女らの脳が見ている幻影なのだと感じるだけだ。
「自分は何か」という問いにもろくろく答えられず、自分の未来も見えない私たち人間に、他人の未来など見えるはずがないのである。
どんな能力をもってしても、だ。
そんなわけで、人生や現実世界を私とは違う方向から解釈するスピリチュアル思考には敬意を払うが、私の未来を見通すなどという霊視者は信用しない。
何故なら私の未来はあらかじめ決められたものではなく、私が自分で作っていくものであるからだ。
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