カオスからコスモスを引き出す実践的養生法論~その十・生命は混沌の中の秩序~前編

奇跡的な偶然により新しい生命体が地球に誕生する。

「生命の偶然」

生命が地球に誕生したのは今から38億年前。

その最初の生命は微小なバクテリアか

もしくはウイルスのようなものだったとされる。

偶然にアミノ酸がつながり、

偶然にDNAが合成され、

偶然に自己複製をする微生物が誕生した。

この偶然の重なりがなければ、

今もこの地球は岩石と海だけの殺風景な惑星だった。

偶然の産物で発生した初期の微生物たちが

住む地球には、まだ酸素が無かった。

酸素が地球に増えだしたのは、

だいたい27億年前頃からとされる。

なぜ地球にこの時期に酸素が増えだしたかというと、

それは藍色細菌が光合成の副産物として酸素を

産出したからだ。

藍色細菌が海中に吐き出した酸素は海中の鉄イオンと

化合し酸化鉄となって海底に沈殿した。

あらかたすべての鉄イオンが酸素と化合すると、

酸素は海中から大気中へと拡散された。

こうしてここまで20億年以上をかけて、

幾度かの酸素濃度の増減をくり返し、

現在の大気の酸素濃度20%に落ち着いた。

酸素が大気の中に増えだした27億年前頃に、

地球の生命に異変が起こる。

それまで酸素のない環境に適応していた嫌気性細菌が、

バタバタと絶滅しだしたのだ。

酸素は非常に反応性の高い元素で、

他の元素と簡単に反応し化合する。

これが皆さんもご存知の酸化だ。

抗酸化というキーワードはイコール・アンチエイジングと

言えるほどに今では酸化の害毒性は周知されている。

つまり27億年前の大酸化イベントによって、

酸化の害毒により多くの嫌気性細菌が絶滅したのだ。

だがその大酸化イベントから逃れるために

酸素と触れない地中に退避した嫌気性細菌がいた。

彼等の子孫が今でも土中に棲息している。

また私たちのような動物の腸内にも

同じ嫌気性細菌の子孫が棲み着いている。

土中にいる嫌気性細菌は土壌菌と呼ばれ、

わたしたちヒトの体内に棲む嫌気性細菌は

腸内細菌と呼ばれる。

土壌菌も腸内細菌もかれこれ38億年の歴史を持つ

生命の大先輩だ。

さて、27億年前から始まった酸素による大気汚染は、

地球の生命に異変をもたらし、

多くの嫌気性細菌を路頭に迷わせ、

あるものを土中へと退避させた。

だがこの時、べつな道をたどったものたちがいた。

 

「生命の共生」

そのべつな道とは、つまり嫌気性細菌と

好気性細菌の共生という道だ。

酸素濃度の多い環境を嫌う一部の嫌気性細菌は、

偶然に酸素濃度の少ない環境を発見する。

その酸素濃度の少ない環境とは、

じつは酸素をエネルギー源としてATPを生み出す好気性細菌が

棲息する場だった。

この好気性細菌はブドウ糖と酸素からATPを生み出すことが

できるαプロテオ細菌だった。

αプロテオ細菌の周囲はαプロテオ細菌が酸素を取りこむせいで、

酸素濃度が低くなった。

そこに目を付けた嫌気性細菌の一部がαプロテオ細菌を

細胞壁にまるでコートでも着るように吸着させた。

そしてやがて嫌気性細菌は着ていたコートのαプロテオ細菌を

体内に取りこんでしまった。

嫌気性細菌の体内に取りこまれたαプロテオ細菌は、

嫌気性細菌の体内での消化分解を免れて、

また酸化毒からαプロテオ細菌固有の遺伝子を守るために、

その遺伝子の大半を宿主の細胞核へと疎開避難させて移譲し、

少しだけαプロテオ細菌固有の遺伝子を保持し、

嫌気性細菌の体内で増殖しながら種を維持する道を選んだ。

嫌気性細菌の体内で増殖したαプロテオ細菌は、

酸素を吸着して天然の酸化防止剤、エイジレスとして

機能した。このαプロテオ細菌の酸化防止剤としての

機能がなければこの宿主は酸素の増大した地球環境では

生きていけなかったのだ。

こうして奇跡的な偶然により新しい生命体が地球に誕生する。

この20億年前に誕生した新しい生命体を真核生物と呼ぶ。

αプロテオ細菌は今でいうミトコンドリアの祖先に当たる。

こうして嫌気性細菌と好気性細菌、そして

その両方の性質を兼ね備えた真核生物の三種の生命体が

地球に出揃った。

しかし、多細胞生物が誕生するまでそれから

約10億年以上を待たねばならない。

 

—— 後編へ続く——

 

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