一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.91「レインツリーの国」

本作は、障碍者に対する私の考えを改めて確認させてくれた作品である。しかし、そういう私個人の思いを抜きにしても、噛みごたえのあるさわやかな感動ラブ・ストーリーとなっている。

耳に障碍を持つヒロインと大阪男子の
胸打つラブ・ストーリー

20年ほど前にベトナムに行った時に、人気のアイスクリーム屋さんでアイスを食べていたら、足元をスースーっと何かが通って行って「?」とよく見ると、板に乗った足のない少年だった。板にはコマが付いていて、スケボーのように移動できるのだ。少年は板に腹ばいになって手で舵を取っていた。私は衝撃で黙りこんでしまい、涙が出そうになるのを友だちの手前必死に抑えた。当時のベトナムの旅は若い私には衝撃が多すぎて気持ちが何度も沈んだ記憶がある。

また15年ほど前には韓国のハンセン病の施設を一人で訪ねた。そこでは足の悪い人には会わなかった。私はどれだけ手や顔が異形になっていようと気にならなかった。

翌日、夕食を食べに出た街中でふいに周囲がざわざわとして人々が道を開けた時は「どうしたんだろう?」と周りを見回した。すると、足元に大きな板に腹ばいになった青年がいた。青年は下半身が不自由らしく、手でこれまたコマのついた板をズリズリと移動させていたのだ。心斎橋筋のような人ごみの中を青年は進んでいく。私はほんとうに驚いた。そして、青年のあとをつけた。
青年はしばらく進むといつもの物乞いの定位置だろう。そこに止まった。私は場所を確認すると踵を返し露天でチョコレートを買い、また青年の場所に戻り、チョコレートと5千ウォンを青年に渡した。青年は言葉も不自由なようで、うめき声しか聞けなかったが、満面の笑顔を返してくれた。私は青年に背を向けると涙が溢れて、泣きながらホテルに戻った。

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ベトナムと韓国で出会った足の不自由な人
私の前世のカルマを意識する

長々と書いたが、どうも私は足に障碍を持つ人に敏感に反応する。それは前世で足が悪かったか、足が悪い人を助けなかったからだと言われたことがある。どちらか分からないが、足に何かカルマがあるのは確かだ。しかし、足だけではなく障碍を持った人に私はいつも近づきたいと思っている。それはなんでかと言うと、何かしたいのである。その人に。その人の助けに私が少しでもなれたらいいな、と純粋に思う。でも、そういう何かされることがわずらわしいと思う障碍者もいるのだ、と本作を観て考えさせられた。
本作は耳が不自由な女性と彼女を理解したいとへこたれない大阪の青年とのラブ・ストーリーである。
原作は有川浩。毎度のことながら彼女の原作は一筋縄ではいかない深いリアルと哲学がある。なんどもうるっとしつつ、考えさせられることがあった。

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玉森裕太、西内まりやの好演で
考えさせられ共感させられ……。

ひとみは事故で感音性難聴を患い障碍のために素直になれないでいた。そんな彼女に積極的にアプローチしてくるブログを通して知り合った伸行。メールだけのやりとりだったのが、会うことに。しかし、ひとみは耳が不自由であることを言わず、二人の仲はギクシャクしてしまう。耳のことを知ってからも明るく再デートに誘う伸行だったが、またしてもデート中にトラブるふたり。気持ちが離れそうになるのだが……。

玉森裕太くん。関西出身だと思った。くらい、ネイティブの関西弁が素晴らしかった! 関東の子と言われたら、そういえば綺麗すぎる関西弁やったかも? とは思ったけど。猛特訓したらしい。そして映画初出演の西内まりやさん。なんとも申し訳無さそうな、悲しそうな表情が心掴まれる!  すごくいい感じで、好感度むちゃくちゃアップしました。役者の好演は特筆もの!

中でも私が一番「ああっそうだよな」と思わされたシーンが、二度目のデートのエピソードだ。楽しく街を闊歩していたひとみが柄の悪いカップルの男に付き飛ばされる。
それを見て伸行が「ちょっと待てよ!  おらっ」と文句を言うのだが、ひとみは皆から注目されることが嫌で「やめて!!」と彼を止める。そして「文句なんか言っても無駄よ。あなたはあの人に天誅でも与えるつもりだったの!?」とキツイ一言を言い放つ。
あーっそうだ。ひとみのため、と伸行は文句を言ったけど、自分がスッキリするために文句を言うってことなんだ。また、こんな輩には言っても無駄なんだ。天誅を人に与えるほど自分は偉いのか? 誰も人に天誅を与えることなんてできないよね。と伸行が自分に思えて、自らの姿を振り返ってしまった。
ひとみは人に注目されて「あの子耳が聞こえないんだ」、と見ず知らずの人に思われること自体が耐えられないのに、伸行は怒りだけで感情的に突っ走ってしまう。
ひとみの気持ちまで気が回らない。

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障碍者との関係は自己満足になりがち
それでも、何かしたいという気持ちを持つ

障碍者との関係では、自己満足になってはいけない。私もその傾向が多いにあるのだが、それでも、私は障碍のある人が困っていたら何かしたいと思う。みんな基本的にはそういう思いがあるのだと思うのだけど。
たぶん、私の場合前世と関連があると思う。私自身が今生でカルマを返そうとしているのだろう。足の悪い人だけに限らず。

本作は、障碍者に対する私の考えを改めて確認させてくれた作品である。しかし、そういう私個人の思いを抜きにしても、噛みごたえのあるさわやかな感動ラブ・ストーリーとなっている。有川浩の本が売れるの、分かります。

■監督 三宅喜重
■脚本 渡辺千穂
■原作 有川浩
■出演 玉森裕太(Kis-My-Ft2) 西内まりや 森 カンナ 阿部丈二 山崎樹範 片岡愛之助(特別出演) 矢島健一 麻生祐未 大杉 漣 高畑淳子
■108分
■11月21日(土)~全国ロードショー

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C2015「レインツリーの国」製作委員会

 

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