一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.145 「火花」

人間は表に出している部分と裏の部分は大抵違う。 表に出しているイメージを多くは死ぬまで守り続ける。

やめられない芸人人生を描く佳作!
売れない二人のやるせない十年の軌跡

芸人というのは、厳しい世界の住人だと思う。

でも、そこでしか生きていけない。そこから出たいと思っても、根っから芸人というのは辞められないのだろう。
たとえ、売れなくても……。
そういう人生を選んだ二人のお笑い芸人の、十年間を丁寧に描いた青春映画の佳作となっている。

正直原作は読むのが辛かった。
ただ二人が会って飲みに行く、という内容で、ほとんど話がない。
頻繁に入る季節の風景や情景描写に非凡なものを感じるも、なかなかページが進まなくてイライラした記憶がある。
テレビ版も少し観たが、役者が好きじゃなくてすぐに観るのを止めた。
それでの映画版。
監督は板尾創路。
過去の監督作が? だったので不安になったが、本作は板尾監督の代表作となるだろう。
やはり、芸人が芸人の話を描くのは秀逸なものが出来るのか。
間といい、ギャグのセンスといい、また詩的な情景描写といい、エンタメであり、文学的でもあり、と原作以上の世界を見事作り上げた。
役者陣も好演。
特に菅田将暉は解散ライブのシーンで大熱演。
たぶん演技賞獲りまくるだろう。

 

ギャグに爆笑! そしてしんみり
解散ライブの菅田将暉の熱演が切ない!

お話は、売れないお笑い芸人徳永と、先輩芸人神谷とのダラダラした日々を描くというもの。
意気投合した二人は師弟関係を結び、毎日楽しく
飲みに行ってはバカ話をするという楽しい日々。
しかし、いつまでたっても売れない徳永は次第にイラついてくる。
それは神谷へも向けられるようになり、二人の間に齟齬が生まれ始める……。

関西出身の菅田くんと桐谷健太が、実際に漫才を猛特訓して「芸人」となり、舞台のシーンもこなしている。
りっぱにお笑い芸人です。
二人の会話もほんまに芸人同士の掛け合いみたいで爆笑‼︎
くくくくっと何度も笑かしてもらいました。
二人とも大阪弁で素でギャグ言い合ってる感じだった。

そして、前述した菅田くんの解散ライブの漫才はリハーサルなしの一発撮りだったらしく、菅田くんは涙、鼻水、唾を飛ばしながら、マイクスタンドに手をブチ当てながらも熱演。
観客のエキストラの面々からもすすり泣きが。
私も観客も凍り付いた漫才だったけど(内容が)、徳永の辛い、歯がゆい、イラついた気持ちが出ている名シーンとなった。
一番の見所だろう。
菅田くんは本作で一皮向けたね。

 

詩的な風景描写が心に残る
小説でも風景描写は大切な部分

時折入る雨上がりの街のカットや、電車の中に捨てられた揺れる空き缶のショットなど、監督のセンスの良さを感じる。
それが入ることで二人の気持ちの湿りや揺れを表す。
それは、原作の風景の描写も同じである。
浅田次郎が「風景や植物の様子を書くために小説を書いている」とインタビューで言っていて、話じゃなくてそれを書きたいんだ、とちょっと驚いたことがあるが、又吉直樹も同じようなことを言っていた。
また、風景描写が小説で大切というのは、著名な作家(名前忘れた)も以前言っていた。
本作は、その詩的な描写によって、より観客の心にやるせなさが残る。

 

人生はなあなあで続いていく
そのいい加減さに許されていいのだ

さて、芸人やコメディアン、落語家など、人を笑わせる商売の人は概して素の顔は繊細だったり、陰気だったり、寡黙だったり、鬱気味だったりする。
それでバランスをとってるわけだが、上手くいかなくなる人も少なくない。

人間は表に出している部分と裏の部分は大抵違う。
表に出しているイメージを多くは死ぬまで守り続ける。
でも、頑張り過ぎないことが大切だ。
自分を追い込まないことが大切だ。
人生や、人との繋がりは結局なあなあで過ぎていくことが多々あるし、それでいいのだと思う。
徳永と神谷も仲たがいするが、結局離れられない。
芸人辞められない。
そして、人生は続く。
ラストにはほっとさせられる。
気持ち良く許されて、劇場を後にできる作品である。

 

監督・脚本 板尾創路
脚本 豊田利晃
原作 又吉直樹
出演 菅田将暉 桐谷健太 木村文乃 川谷修士 三浦誠己 加藤諒 高橋努
日野陽仁 山崎樹範

※121分

※11月23日(木・祝)全国東宝系公開
©2017「火花」製作委員会

 

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