一宮千桃のスピリチュアル☆シネマレビューPART.122 「ホームレス ニューヨークと寝た男」

本作はマークの姿を追いながら、ニューヨークという街と、そこで暮らす人々も点描される。 しかし、監督は何も主張せず、観た人にすべてゆだねているようだ。

スタイリッシュなナイスミドル?
実はホームレスという驚愕生活!

私が始めてニューヨークに行ったのは、2002年のことだ。
テロ事件の翌年で、警戒態勢だったこともあり治安はすこぶる良かった。
景気も良く見えた。

アメリカなんてなんの興味もなかったが、友人が行ったことで、私も行きたくなって行った、というだけだった。
しかし、空港から市内に入る道は工事中で汚く、ブルーシートで隠したような場所が多数で、私は??

45丁目にとった宿から歩いて行った「空母イントレピッド博物館」までの道では誰にも会わず、また70丁目を越えてこれまた歩いて行った「歴史博物館」(だったかな?)周辺には人っ子ひとりいず、私は何度も(ここは本当にニューヨークなのか? もしかして、私は間違って違う国に来てるのではないか??)と何度も思った。

そこは映画やテレビで見る華やかなニューヨークではなかった。
東京の方がずっと洗練されてて、大都会だ! と心底思ったものだった。

さて、この映画に出てくるニューヨークもまた、私の知らないニューヨークである。
そのニューヨークでカメラマン兼俳優として働きながら、自宅はビルの屋上というホームレスの男を追ったドキュメンタリー。
本作は男の生活と孤独、そして私の知らない不気味な街、ニューヨークを見せてくれる。

 

いつ逮捕されるか? 緊張の日々なのに
部屋を借りる気はない

ヴィスコンティの映画に出てきてもおかしくないようなヨーロッパ的雰囲気の漂うハンサム、長身、ユーモアと愛嬌たっぷりの話上手、センスのいい着こなし、ナイスシューズ、どこから見ても成功したお金持ちのマーク52歳。

しかし、家なし。
不法侵入のビルの屋上がねぐらだ。
荷物はジムの4つのロッカーに収め、身だしなみは公園のトイレで整えて出掛ける。
そんな生活をもう6年も続けているという。
驚きだ。

マークは街で写真を撮りながら、雨に備えて店でビニールシートを調達する。
仕事はPCを抱えて夜中までカフェのはしご。
ジムでは体を鍛えるのに余念がないが、時にそこでアイロンをかけたり洗濯したり、昼寝したり。
不自由はないようで大有りだ。
なんでこうなってしまったんだろう? と自問しながら、マークは家を借りる気はないように見える。
いつ不法侵入で逮捕されるか? いつも緊張している日々。

 

自分のことが嫌い。自分を大切にしない
マークの魂の荒みが垣間見える

そして、なんで自分のことが嫌いなのか?
わからない。

今まで生きてきて女性に愛してると言ったことはないんだ。
ある日僕は普通の人生しか送れないと悟ったんだ……と聞いてはいけないような独白が続く。

家がないと私はどうだろうか? と考える。暮らせないことはないだろうけど、確実に魂は荒んでくると思う。
私は私が大切なので、私の体を心地良く休ませる場所は絶対必要だ。
マークの場合も、魂の荒みが見られる。

それは自分を大切にしてないからだ。
自分のことが好きじゃない。
嫌いだと言う。
自分のことさえ愛せない人間に他人を愛することは無理だ。

 

監督は主張せず観客にゆだね、問うだけ
自身のモノ余り生活を振り返る

本作はマークの姿を追いながら、ニューヨークという街と、そこで暮らす人々も点描される。
しかし、監督は何も主張せず、観た人にすべてゆだねているようだ。

ニューヨーク、二度と行きたくない街だが、病んだ街の代表だろう。
マークもニューヨークで暮らさなければ違った生き方ができたのでは? とも思う。
国や街には背負ったカルマがあるが、アメリカのカルマは大変なものである。

この映画を通して見えてくるものは、自分の体を大切にして、自分を愛さない限り幸せはないのではないかということだ。
幸せは主観的なものだが、とてもマークは幸せそうには見えない。
特に母親のことを語る時など。

しかし、私も家の中はものだらけなので、荷物はロッカー4つに収める、というのは見習いたいと思ってしまった。
マークのライフスタイルは極端だが、自身を振り返る要素はいくつもある秀作ドキュメンタリーだ。

監督 トーマス・ヴィルテンゾーン
出演 マーク・レイ
83分

※2月4日(土)〜シネ・リーブル梅田、京都シネマ ほか全国順次ロードショー
© 2014 Schatzi Productions/Filmhaus Films. All rights reserved
<配給> ミモザフィルムズ

 

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